研究課題/領域番号 |
19K00571
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
吉田 和彦 京都産業大学, 外国語学部, 教授 (90183699)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヒッタイト語 / アナトリア諸語 / 印欧語比較言語学 / 動詞形態論 / 中・受動態 / 命令法 |
研究実績の概要 |
今後の印欧語比較言語学の発展の鍵を担うアナトリア諸語を研究の中心にすえて、動詞形態論に関する実証的な分析を進めた。今年度のもっとも大きな成果は、ヒッタイト語内部の歴史に生じた形態変化のうち、直説法にだけ観察され、命令法に観察されない変化を発見したことである。このような事例は少なくとも2つある。 印欧諸語の3人称単数中・受動態動詞において、本来の語尾*-oは対応する能動態語尾*-tからの形態的影響によって*-toになる変化が生じた。文献資料からこの変化の実態を読み取ることができる言語はヒッタイト語だけである。古期ヒッタイト語の中・受動態arga (< *-o)「上る」は後の時期にはarkatta (< *-to)に変化している。しかしながら、対応する中・受動態命令法はarugaru (< *-o-ru)であり、上記の形態変化を受けていない。 もうひとつの例は、作為動詞の中・受動態命令法にみられる。古期ヒッタイト語において作為動詞の直説法3人称単数能動態は-ait (< *-eh2-ye-t)、中・受動態は-atta (< *-eh2-ye-to)で特徴づけられる。しかしながら、中・受動態-attaはほとんどの場合能動態の影響を受けて-aittaに変化している(能動態handait「整える」、古期ヒッタイト中・受動態handatta、後期ヒッタイト中・受動態handaitta)。これに対して、対応する中・受動態命令法はつねにhandattaruであり、この形態変化を受けていない。 以上の2つの事例により、直説法では失われた古い特徴が命令法においてなお保持されていることが明らかになった。直説法以外の法の分析は、より正確な言語史の構築に寄与する点で、今後の研究においていっそう重要になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究はおおむね順調に進んだ。新しく得られた知見を印欧語動詞形態論全体のなかに組み込み、6月にペンシルベニア大学で開催された国際会議で発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
研究を効果的に推進するためには、広い視点に立って種々の音韻的・形態的要因を考慮に入れなければいけない。特に、古い特徴を保持していると考えられる、例外的で逸脱した言語特徴に注目する。研究成果の公表については、6月にヴァージニア工科大学での印欧語会議において、および8月にトルコのチョルム市での国際学会において発表する予定である。このような機会を活用し、各国の研究者との国際的な連携のもとで、意見交換の機会を積極的につくる。
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