本研究では、音声言語と手話言語という、モダリティの異なる二種類の言語の線形化における違いを明らかにすることを目標とした。文の構造(統語構造)は 多次元的なものであるが、音声言語の場合は「音声」というモダリティの制約上、発音の際には構造内の構成素を線形化(一次元化) する、すなわち順番をつける必要がある。一方音声モダリティに依拠しない手話言語の場合、 統語構造の線形化において一次元化の制約がないため、二つの要素の間の語順決定が義務的でないことが予測される。しかし実際は予測に反して、手話言語の手形表出の際には線形化は義務的である。研究代表者および研究協力者(日本語と日本手話 のバイリンガル話者)はこれまで日本手話の研究に従事してきて、日本手話に際してこの「手話言語の手形表出の際には線形化は義務的である(両手が使えても、手話のジェスチャーの表出は一つずつ順番をつけて表出される)」という仮説を指示する根拠を他の研究課題において散発的に観察しているが、系統立てた分析は行ってこなかった。そのため、2019年度より既存のデータの再検討と新しい体系化を行った。2020年度と2021年度もさらに、心理学的な実験の準備も視野 に入れて、従来は線形化と関係がないとして捨象してきたデータの再検討も含めた詳細な再分析を実施した。既存のデータの詳細な再分析を通して、研究の対象としている「ABA」の形式がどのような場合に用いられているかに関しては、概ね2パターンに分類が可能であることを解明した。
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