「舌打ち」や「笑い」は通言語的であるにもかかわらず、そこには社会的・文化的・慣習的な用法が存在する。最終年度にあたる2023年度は、1.マルチモーダル分析に基づくタイ人の「舌打ち」の総括、2.日本とタイそれぞれの「笑い」にみられるフェイスの検討をした。 1.非言語行動としてタブー視される「舌打ち」について 映像データを用いて、非言語行動(舌打ち)が言語行動(発話)の連鎖の中で、どのように共起するのかをマルチモーダルに記述し、そのコミュニケーション上の意味・機能を分析した。分析の結果、タイ人の舌打ちは、①用法、②意味、③機能、④発話権の観点から、1)認知行動系、2)発話調整系、3)感情表出系の3つに分類できるという結論に至った。また、こうした舌打ちによるコミュニケーション行動に共通してみられる特徴を記述し、言語文化によっては言葉以上のメッセージ性があることを提示した。 2.特におかしくもないところで笑う「笑い」について 2021年度よりタイ人研究者2名とタイ在住の日本人研究者1名との共同研究を行ってきた。2023年度も継続して同じメンバーで研究を進めることができた。2021年度は日本映画にみられる不可解な笑いについて、2022年度はタイ映画にみられる不可解な笑いについて、2023年度は日本とタイそれぞれの笑いの種類について研究を進めた。会議はオンラインで定期的に行い、対面での意見交換も2回行った。また今年度は、2022年度に検討したタイ人の笑いの中で特に違和感のある「笑い」を選定し、インタビュー調査を実施した。調査協力者はタイ語を母語とする日本語学習者で、インタビューでは価値観やフェイスに関する質問を準備し、半構造化インタビューの形式で実施した。なお異文化の「笑い」については残された課題もあり、今後も継続して研究を進めていく予定である。
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