研究課題/領域番号 |
19K00584
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
杉山 由希子 慶應義塾大学, 理工学部(日吉), 准教授 (70525112)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 日本語ピッチアクセント / 単語韻律 / 音声産出 / 音声知覚 / 二次的音響特徴 |
研究実績の概要 |
本研究は、音韻情報の冗長性やそれによって担保される音声コミュニケーションの頑健性に注目しながら、日本語(ここで日本語という場合には、全て東京方言を指すものとする)の単語韻律の音響特徴を同定することを目的としている。具体的に検証する問いは、次の3点である。1)アクセント型の違いは、日本語ピッチアクセントの微細な音響特徴にどのような影響を与えるか、2)発声法の違いによって、日本語ピッチアクセントに音韻相補関係は生じるか、3)連続母音無声化の起こり得る音韻環境と起こらない音韻環境では、日本語話者の日本語ピッチアクセントに関する表象(representation)は異なるか。初年度の2019年度は、上記3点全てについて少しずつ着手した。具体的には次のようなことを行った。 1)NTTデータベース『日本語の語彙特性』(1999)を用いて自身が作成した「最小対単語リスト」を使い、4人(男女それぞれ2名ずつ)の日本語話者より音声を録音した。このリストは、頭高型と尾高型、尾高型と平板型のペアから構成され、ペア内では音素配列は同じでアクセント型が異なる。そのため、音響分析をした際にペア内で音響特徴に違いが見られた場合には、それはアクセントの型の違いに起因するものであることと言える。なお、親密度は『日本語の語彙特性』で5.0以上(最高値は7.0で、最も馴染みがあることを示す)で、日本語話者には馴染みのある単語のみを用いた。 2)上記1)のリストを、通常の発声とささやき声の2種類で、上記の日本語話者4名に読んでもらった。 3)2音節から成る単語リストを作成し、そのうち10語は有声子音と母音のみから成り、母音が無声音化しない単語で、もう10語は無声子音と高母音から成り、少なくともいずれかの母音は無声化が起こると考えられる単語を用いた。これらの単語も、1)の日本語話者から音声を収録した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
録音の環境を整えるのに、とても時間がかかった。本研究ではささやき声の録音をしており、ささやき声は通常の発声と比べて音量がずっと小さいため、録音時のノイズにとても気を遣う。もともと録音を予定していた防音室は、防音が不十分で、廊下の話し声や足音、鐘の音などが聞こえてくることがあった。また、残響も少しあった。音声分析をする限りには問題はなさそうだが、録音した音声を編集して聴覚実験の音声刺激にするには、十分な音質とは言えなかった。そこで他大学の防音室をお借りして録音をすることになった。こちらの防音室は静かで残響もなく、その上では問題なかった。しかし、録音にわずかにノイズが混じっており、音源を特定するために、複数の録音機器を試したり、機器の接続方法を試したりして、最善の録音方法を見つけるのに時間がかかった。 また、録音の所要時間は、自身が試しに録音した時にかかった時間もとに、1人あたり3時間と見積もっていた。ところが、実際に実験協力者にお願いして録音すると、1人あたり5時間あまりかかることが分かった。学術誌に掲載されている論文などを見ていると、当初想定していたよりも少ないサンプル数で妥当な結果を得ることができそうだと分かったため、分析にかかる時間なども考慮し、サンプル数は減らすことを検討している。
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今後の研究の推進方策 |
これからは、これまでに収録した音声の分析に着手する。上で述べたように、録音自体にもかなり時間がかかるが、分析のための準備や分析にはそれ以上の時間が要されると予想されるので、当面は、分析に専念する。また、分析の準備を進める過程で、知覚実験でどの音声を用いるのかも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
国内旅費、物品費、学会参加のための登録料の費用などが想定していたよりもかからなかったため。 最近発売になった高性能のマイク、音圧の測定に使用する騒音計、(現在使っているものが劣化しつつあるので)デスクトップパソコンの購入などを検討したい。
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