研究課題/領域番号 |
19K00594
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
柳田 優子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (20243818)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 心理動詞 / 格変化 / 与格主語 / ヴォイス |
研究実績の概要 |
本年度は2つの観点から研究をすすめた。 1)格システムの変化に関する日本語とオーストロネシア語族の類型的比較研究を行った。日本語では非対格型から対格型,オーストロネシア語族では対格型から非対格型への変化がどちらも名詞化に起源があることを示した。本研究はAldridge Edith氏との共著でDiachronicaにて出版された。 2)心理動詞の格表示の変化に関する実証研究を行った。現代語には,心理述部の主語が「ニ」格,目的語が「ガ」格であらわれる,いわゆる「非標準的格表示(non-canonical case marking)」が存在する。しかし,こうした非標準的格表示は室町時代以前の資料には存在しない。本年度は,上代から室町時代の心理動詞に現れる,経験主の格表示がどのように変化したかを国立国語研究所の「日本語歴史コーパス」を使用して調査を行った。言語類型論的に心理述部の2つの項は他動詞の主語,目的語とは異なる非標準的格表示で現れる言語が多くある。こうした非標準的格配列は歴史的に不安定で消失したり,出現したり,変化が起きやすい。たとえば,古英語は非標準的格表示が存在するが,現代英語では消失している。サンスクリット語は非標準的格表示は存在しないが,現インド語群に属する南アジア言語は非標準的格表示が存在する。本年度の研究は,非標準的格表示は,標準的格表示の変化ー能格型から対格型あるいは対格型から能格型への変化(alignment change)ーに伴う付帯現象(epiphenomenon)として出現するという仮説を立て,日本語の歴史資料から広範な実証的事実を提示した。本研究はJournal of Historical Linguisticsにて出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
現在までの進捗状況は遅れている。当初計画した,海外研究者との共同研究や研究発表がコロナ禍のため,ほぼすべてが中止になったため。海外渡航もできる状況になかったので,当初の研究計画を変更せざるを得なかった。また,授業などがすべてオンラインになったため,相対的に学内業務や授業のエフォートが上がり,研究に費やせる時間が少なくなった。
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今後の研究の推進方策 |
インド・イラン語派の格変化と日本語との比較研究を行う。能格型他動詞は受動態に起源があるという多くの研究がある。このように格変化はヴォイスの変化がトリガーになることが知られている。今年度は,引き続き,上代から近世までの歴史資料を広範に調査し,日本語における格システムの変化とヴォイスの関係を詳細に調査し,日本語における変化を日本語独自の変化としてではなく,言語類型論の視点から,記述するための実証研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画した,海外研究者との共同研究や研究発表がコロナ禍のため,ほぼすべてが中止になったため。海外渡航ができる状況になかったので,当初の研究計画を変更せざるを得なかった。次年度はコーパスからの広範なデータ抽出とデータの分析を行うための研究員を雇用する。
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