研究課題/領域番号 |
19K00603
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
守田 貴弘 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (00588238)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ダイクシス / 捉え方 / 主体性 / 文法化 |
研究実績の概要 |
計画していた実験が実施できない状況であるため,ダイクシスあるいは指標詞の発生と文法化およびその捉え方の理論的考察を2方面から行った.1つは文法化との関係である.現在の文法化研究 (Heine & Kuteva 2007) では,指標詞は副詞などから発生したものと考えらえている一方で,ヒトに飼育された大型霊長類でも観察されているため,言語進化の研究においては指差しは原始的な指示能力として考えらえており.また,文法化の研究では,Heine & Kutevaおよびこれが依拠する研究に反論し,ダイクシスは何かから派生したものではなく,最初に現れるカテゴリーだと考えるものもある (Diessel 1999ほか).今年度は現状で利用可能なこれまでのデータを再検討しながらこれらの先行研究を精査することにより,ダイクシスに現れる捉え方の問題を原始的な指差し相当のものから機能的なものへの拡張過程として位置づける可能性を検討した. もう1つは,移動表現の類型論では,ダイクシスを経路の一部として扱うべきかどうかという議論が続いている.経路とまったく別のカテゴリーとしてダイクシスを扱うならば,動詞枠付けと衛星枠付けという2つのタイプに加えて,別のタイプを立てる必要が生じる.ダイクシスが経路の一部であるならば,現状の2つの言語タイプの下位カテゴリーを設定することになり,理論的な意義を見出すのが難しいという問題がある.この現状に対して,従来の類型論を維持しながら,経路から切り離してダイクシスを分析することの理論的意義を考察し,知覚した移動事象を話し手が言語によって再構成するときに,話し手がどの程度,言語表現の中に介入するのかを測る指標としてダイクシスを捉える,移動事象とは異なる類型論を構成するものとして提案した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していた実験の実施ができていないためやや遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していた実験のうち,一部をオンラインで実施可能な態様で実施できるように修正を進め,発話実験形式ではなく,日本語の「行く」と「来る」,フランス語のallerとvenirが表すダイクシスの意味についての容認度に関するアンケート分析を通して,両言語の動詞が表しうる機能的意味と元来の直示的意味の範囲に違いがあるかどうかを確定する.さらに,過去のデータでは,現在までの私信による容認度判断に反する例も得られていることから,新たに行うアンケート分析との違いを考察し,機能的ダイクシスが普遍的に存在するものなのかどうかを検討する. 2022年11月には移動表現に関する国際会議をホストすることになっているため,その準備を進めながら,これまでの理論的考察の結果を発表する.
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次年度使用額が生じた理由 |
海外渡航が不可能であるため予定していた国際会議の出席および現地調査ができず,旅費の支出がなかった.繰越金は,次年度に日本で研究目的に合致した国際会議を開催する予定であるため,基調講演者の招聘および会議に必要となる機器および人件費を中心に使用する予定である.
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