研究課題/領域番号 |
19K00605
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
安齋 有紀 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 准教授 (80636093)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 公共空間 / 音声アナウンス表現 / 日仏対照 / 発話主体間関係 |
研究実績の概要 |
初年度は公共交通機関での注意喚起と協力(配慮)要請/依頼の表現を対象として、看板や張り紙などによる文字表示と音声によるアナウンスを比較した。両方とも言語表現の簡潔性が求められるが、視覚的な情報である文字表示はメッセージの持続性・恒常性が特徴であるのに対し、聴覚的な情報である音声アナウンスは瞬間性・現前性・緊迫性という特徴があげられる。これらの基本的な特徴から、音声は現前する聞き手に行為の遂行を直接働きかける力が文字よりも強いことが予想され、特に公共空間での注意喚起や協力(配慮)要請が必要な場面では、音声アナウンスの「遂行指示効力」が発揮されることが予想できた。 公共空間でメッセージを受信する側の意識という観点では、掲示を目にするよりも音声アナウンスが聞こえる状況の方が、音声という物理要素が持つ個別性や瞬間性によって、対話主体としてのメッセージの発信者の存在や、発信者との対話関係を受信者が意識しやすいという仮説を立てた。公共空間では掲示と同様、音声によるアナウンスも発信者と受信者が直接対話する対面対話ではなく、発信者には匿名性があり、受信対象は不特定多数である。しかし、アナウンスによっては匿名の人物が呼びかけるような設定・形式でも、その発信者を特定できるケースがある。一方受信者に関しては、不特定多数に呼びかけるような設定・形式を装いながら特定の人物を受信対象としているケースもある。このように個人から個人へという対面対話に近い形式の情報伝達の構図が公共空間に現れる場合、音声アナウンスには現前する聞き手に行為の遂行を直接働きかける力だけでなく、不特定多数の中の「個」に働きかける力が作用すると考えられる。さらに、特定の対象に呼びかけることで、周囲の不特定多数の対象に注意喚起や協力要請を促す「二次的な効果」も予想され、公共空間における言語的効率性の活用が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和元年度(初年度)の前半は、予定していた研究発表2件(7月:西南学院大学、8月:青山学院大学)を実施し、さらに日本における言語景観研究の専門家との研究交流をはじめ、Genre bref研究グループでの意見交換を通して情報を考察、次年度に向けて新たな課題設定に しかしながら、後半については新型コロナウィルス感染拡大の影響により、令和2年3月中旬に予定していたフランスへの渡航を中止したため、令和2年度に計画しているフランス語の事例研究にむけた準備(1.パリ第3大学での研究発表およびフランス側の研究者との研究交流、2.フランスの交通機関および空港や駅などの関連施設、ショピングモールなど公共空間におけるアナウンス表現の録音、言語データ収集などのフィールドワーク、大学図書館等での資料収集)が実施できなかった。 フランスへの渡航中止を含め、国内でのウィルス感染症拡大という状況下で、年度末(2月~3月)に予定していた国内の研究会・勉強会も中止または延期となり、それによりこの時期に着手する予定であった論文執筆作業にも遅れが生じた。 以上の通り、主に年度末の研究活動の実施状況を鑑み、初年度全体の進捗状況についてはこの評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
本課題の研究活動を行なっている日仏対照言語学の共同研究グループGenre bref dans l’espace public(「公共空間における短文のジャンル」:国内拠点:青山学院大学、国外拠点:パリ第3大学)では、今後の研究推進方策としてオンラインによる研究会の実施を計画している(先に述べた初年度末の研究活動の遅れへの対応策として、すでに3月に国内の研究者間でWeb研究会を実施し、フランス側の研究グループに日本側の進捗状況を報告済み)。現時点で、最終年度(令和3年度)の6月には同研究グループによりフランス(パリ第3大学)でのシンポジウムが企画されている。 令和元年度末に止むを得ず中止となったフランスでのフィールドワーク(交通機関および空港や駅などの関連施設、ショピングモールなど公共空間におけるアナウンス表現の録音、言語データ収集)については、本課題にとって重要な研究活動であるため、事態が収束するまではフランスの研究者からの資料提供やWeb上で公開されているデータベースの利用によって研究を続行し、今年度末をめどにフランスへの渡航が可能になり次第、現地で必要なデータを収集することとする。初年度末に着手予定であった論文についても、令和2年度に投稿する予定である(2本)。 課題の内容に関しては、初年度の研究成果から公共空間の音声アナウンスに観察される特徴的な主体間関係(発話主体の二重構造:匿名性および不特定性による曖昧性)と、メッセージの内容を聞き手が遂行するよう促す現場での効率性の関係という新たな課題の設定に至った。これは今後検討すべき重要な課題であり、フランス語と日本語の事例について共在マーカーの語彙的・形態的な傾向と、音声上の特徴の分析を中心に研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大の影響により、令和2年3月初旬と中旬に予定していた2件の出張(東京、フランス・パリ)が中止となったため、国内・国外旅費として計上していた費用を翌年度以降に繰り越した。 令和2年度中は、状況によって海外への渡航が可能となった時点でフランスでのフィールドワークを実施する予定。なお、最終年度には2件の海外出張を予定しているため、その旅費としての使用を計画している。
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備考 |
研究会発表2件:「フランス語の対話場面における明言の回避」:語楽会(西南学院大学), 「公共空間における音声アナウンスの特徴」:Le Genre bref dans l'espace public(「公共空間の短文ジャンル」公開研究会)(青山学院大学)
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