研究課題/領域番号 |
19K00605
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
安齋 有紀 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 准教授 (80636093)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 公共空間 / 発話主体間関係 / 音声アナウンス / 人称表現 |
研究実績の概要 |
令和2年度は道路、公園、交通機関・施設などの公共空間におけるアナウンス表現について、フランス語の事例を中心に分析を行った。公園の敷地内や路上での禁止行為(ゴミの投げ捨て、違法駐車など)に対し、監視カメラとともに設置されたスピーカーを通して警察官がその場で注意するアナウンスは直接の対面対話ではないが、特定の相手に直接呼びかけることで双方の存在が特定される特殊な発話場面である。このような伝達場面では、特定の対象がメッセージの実質的な宛先であっても、アナウンスが聞こえる範囲(空間)にいる周囲の不特定多数の利用者もメッセージの物理的な受信者(聞き手)となる。発信者側の主体としては、メッセージの内容に関して責任を負う発信元(=空間を管理する団体、メッセージの作成元)とメッセージを伝達する「声」の主、すなわち物理的な話者が存在する。このように異なる立場の複数の主体が関わる特徴的な発話主体間関係について検討した。さらに、音声によるアナウンスに観察される発信者と受信者の顕在化の現象と、そこに現れる特徴的な発話主体間関係について、フランスの公共交通機関(フランス国有鉄道:SNCF)のアナウンスに観察される人称表現の特徴からも検討した。 以上の考察を通して、特殊な発話主体間関係が構築される公共空間における要請や注意喚起、警告の音声アナウンスでは、どのような言語表現であれば発話者が共発話者(対話者)に行為を遂行させる効果が発揮されるのか、それはどの程度まで実現可能なのか、またどのように伝えれば個人が命令されている、咎められているという意識を緩和できるのか、効果的なアナウンスの表現について人称形態、語彙、長さ、音調、発話のタイミングなど検討すべき要素を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度前半は、初年度後半に引き続き国内外における新型コロナウィルス感染拡大の影響により、国内の移動制限およびフランスへの渡航中止を含め予定していた国内の研究会・勉強会も中止または延期となり、本研究の対象である公共空間(空港や駅など公共交通機関、ショピングモールなどの施設)における音声アナウンスの録音、語彙データ収集など事例研究にむけたフィールドワークを行うことができなかった。しかしながら、年度後半においては、オンラインでの研究交流が可能となり、Genre bref研究グループの研究会(9月・12月)が実施され、今後の研究の推進について意見交換を行うことができた。その考察を踏まえ、年度末に研究論文を執筆した。さらに、昨年度予定していたパリ第3大学の研究セミナー「Genre bref dans l’espace public」で研究発表を行い、フランスの研究者との意見交換を実現できた。以上、論文執筆および研究発表を通して、令和3年度に向けて新たな課題設定に至った。年度後半の研究活動は概ね予定通り実施できたが、年度前半の状況を鑑み、令和2年度全体の進捗状況についてこの評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度からのコロナ禍において、不特定多数の人が集まる(利用する)公共空間では、注意喚起のアナウンスが増え、その内容にも様々な変化がみられる。このような特殊な状況で、場合によっては厳しい規制や罰金の金額などを告げざるを得ないという事情から、音声アナウンスを担当する部署では人々の反応を映像から検証し、テキストの長さや表現の適切性や効率性はもちろん、受信者の心理を考慮しながらアナウンスの原稿を作成するなど、情勢に応じた表現方法を模索している。とりわけ、音声アナウンスでは「声」の質や口調などについても重要視する傾向にある。このような現状を踏まえ、プロソディーについてより詳細な分析をフランス語・日本語の事例について行い、アナウンスの内容や場面ごとに音声上の特徴を割り出し、今後の様々な緊急事態におけるアナウンス表現にどのように応用できるか検討する。また、分析に必要な資料体については、令和3年度に関しても国内の移動およびフランスへの渡航が困難であることが予想されるため、本来フィールドワークによって収集すべき音声データを令和2年度と同様にインターネットや団体の公式HPなどを通して入手しながら研究を推進することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大の影響により、令和2年度も国内および海外への全ての出張が中止となったため、当初予定していた旅費の支出がなく計上していた費用を翌年度に繰り越した。令和3年度は状況に応じて年度後半で国内外の移動が可能になった場合は旅費(フィールドワーク、学会参加用)として、さらに研究機材の更新等に充てる予定である。
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