2021年度には、著書として『漢字の音』と『漢字字形史字典【教育漢字対応版】』を公刊した。前者については、音符(発音符号)を持つ形声文字を中心にして、古代中国の上古音・中世中国の中古音から現代日本の音読みまでの経緯を解説した。基本的には一般向けの概説書であるが、漢字の構造についての統計情報など、本研究による成果の一部を利用している。また末尾には上古音に関する先行研究批判や推論なども掲載している。 後者については、漢字の字源と字形の歴史を中心に解説した字典であるが、字音や字義も考慮したことが特徴である。従来の字源研究は、字音に偏重したものや字形からの類推など、判断基準が偏っていたが、本研究では漢字が持つ三つの要素である字形・字音・字義のすべてを考慮しており、従来の研究よりも総合的な分析が可能になった。そのほか漢字の歴史や分類法などについても言及している。 また口頭で「漢字における形声とその周辺の概念について」と「漢字における『形符』という概念について」を発表した。前者は、形声文字に関して、構成要素である意符と音符の特徴を述べ、また形声文字の形成過程を論じた。後者については、従来は明確に認識されていなかった象形性による構成要素を「形符」と仮称し、字源や字形の分析においてそれが必要であることを論じた。なお、後者の内容については、2022年度に「形音義による漢字の構成要素の分類」として発表予定である(『日本漢字学会報』第4号、掲載決定)。
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