研究課題/領域番号 |
19K00625
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
矢田 勉 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (20262058)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 仮名 / 平仮名 / 片仮名 / 正訓字と仮名 / 表記史 / 表記体の交渉 / 字音漢字使用の基盤 / 字史 |
研究実績の概要 |
今年度も、新型コロナウイルス感染症の影響により、当初予定されていた他機関等所蔵資料の調査は行わず、所属機関所蔵の資料の調査や、これまでに収集したデータの分析等を中心として研究を進めた。 本研究の骨子となる、仮名表記史と漢字表記史の交渉、平仮名表記史と片仮名表記史の交渉に着眼点を置いた、日本語表記史の通史的記述については、そのフレームワークの構築をほぼ完成させ、現時点で20000字程度の原稿が準備されている。今後は各時代の個別的事象の記述について、具体的な肉付けを行っていくことを主とする段階にある。 そうした中で、今年度はいくつかの副産物的な研究成果を得た。一つは、変体仮名「見」と草書体正訓字「見」との関係を分析したものである。正に、平仮名表記史と漢字表記史のあわいにある現象を詳細に記述することを目指したもので、日本語学会2021年度春季大会(2021年5月15日)において、招待発表「「見」の字史(「見」は原文変体仮名/草書体漢字)」として発表することを得た。本発表を通して、言語史に「語史」があるごとく、文字史に「字史」を設定することの方法論的有効性をも示せたと考えている。二つめには、漢字の受容における表語文字としての方法と表音文字としての方法(仮名)とを東アジアの文字環境全体の中に定位する試みで、日本漢字学会の刊行物『漢字系文字の世界 字体と造字法』(花鳥社2022年3月)において「文字史のなかの漢字系文字とその研究意義」として発表した。三つめは、日本人の字音漢字使用の基盤の変容、特に近世・近代間におけるそれを、「通用字」の観点から論じたもので、『ことばと文字』15号(2021年4月)としてこれも公刊済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「概要」にも述べた通り、新型コロナウイルス感染症の影響で、今年度も他機関所蔵資料の原本調査に関してははかばかしい進捗を得ることができなかったが、それに代わって、入手済みおよび新規入手の資料の分析に時間を掛けることができた。 仮名表記史・漢字表記史およびその関係史のそれぞれに関して、上代・中古・中世・近世に関しては、その通史記述を行うための枠組み的記述は、かなり完成に近い段階のものを成すことができた。近世・近代の過渡期および近代以後の表記史的変遷に関しては幾分かやり残された部分が存するが、理論的な準備はほぼできあがっており、次年度にはその部分も含めた枠組みの完成が見込める段階である。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度においては、新型コロナウイルス感染症の状況がやや落ち着くという条件のもと、他機関所蔵資料の調査も再開させたい。 但し、本研究計画の終盤段階に入ってきたことでもあり、当初通りの計画には必要以上には拘泥せず、この状況下で最大限の研究成果が得られるよう、柔軟に研究方針の変更にも対応していく。具体的には、今年度同様、入手済みの資料からより深層的な事象を引き出すための分析に一層の注力をし、追加の資料調査については、そこから特に必要性が高いことの明らかになってきたものを優先的・重点的に行うなど、研究の効率化をより強く意識していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度も新型コロナウイルス感染症の影響で、他機関所蔵資料の原本調査がままならず、旅費等の使用ができなかった。その分を、分析対象とする原本資料の購入などに充てたが、来年度の分析に供する新たな資料の見込みもあり、その分については次年度使用額とした。
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