研究課題/領域番号 |
19K00636
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
佐々木 冠 立命館大学, 言語教育情報研究科, 教授 (80312784)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 形態音韻論 / 動詞活用 / 形態語彙規則 / 不透明性 / 脚韻 |
研究実績の概要 |
2021年度はコロナ禍のもと、対面での方言調査はできなかったが、Zoomを使ってオンラインで調査を行なうことができた。オンラインで行った調査は千葉県、滋賀県、奈良県、京都府出身者を対象としたものであった。関西地方で行なった調査をもとに2021年7月29日に開かれた第110回札幌学院大学言語学談話会(オンライン)でウ音便と母音短縮の相互作用について脚韻を使った分析を発表した。 上記以外の口頭発表としては、2021年4月11日に開催された北海道方言研究会第231回例会で発表した2005年度に行なった方言調査で収集したデータの再解釈のほか、2021年10月31日に開催された日本語学会のワークショップで発表した方言の動詞活用形に関する通時的分析がある。前者は共同研究でありサ抜き現象という形態音韻論的プロセスに関する分析を含む。後者は形態語彙規則の導入により接尾辞付加とそれに伴う形態音韻論的プロセスによって説明すべき現象の範囲を限定する試みである。 印刷された業績としては2021年9月28日に出版された論文集『フィールドと文献からみる日琉諸語の系統と歴史』に収録された「不規則性の衰退:日本語方言の動詞形態法で起きていること」がある。この論文では、日本語方言の動詞形態法の多様性が、語彙部門に登録される接尾辞や語幹の異形態が減少し入出力間の関係が明確な形態音韻論的プロセスで語形変化が説明できる方向に向かう傾向によって説明できるとする分析を展開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度については進捗状況に関して「遅れている」という評価をしたが、2021年度に関しては「やや遅れている」と評価することにした。これは、2020年度に生じた問題で解決できたものがあることに加えて、予想以上の前進が可能になった側面があるためである。 2021年度も2020年度と同様対面での調査ができなかったために調査はオンラインによるものになった。この方法は対面に比べて新しい調査協力者を得ることが難しい。そのため、調査回数が従来に比べて少なかったのは2020年度と同様だが、2021年度は関西地方でも調査協力者を得て調査を前進させることができた。その中で音便と母音短縮の相互作用という分節音とリズムの両方に関与的な現象の分析に着手することができた。これは当初予想していた以上の研究の前進であった。 2020年度から過去の文献から形態音韻論的現象のデータを抜き出す作業を学生アルバイタを雇って始めたが、2020年度はコロナ禍で大学が閉鎖されていた期間があったために学生アルバイタを思うように雇用できず作業が進まなかったが、2021年度は一定の入構制限はあったものの大学が閉鎖されていた期間がなかったため学生アルバイタを必要なだけ集めることが可能になり、作業も進んだ。 研究成果の発表に関しては「研究実績の概要」で示した通り、一定の成果が上がっている。しかし、このうち、論文は2020年度に刊行予定だったものである。コロナ禍により調査だけでなく編集にも一定の影響が出ている。
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今後の研究の推進方策 |
従来型の面接調査でのデータ収集が困難な状況は今後も続く可能性がある。しかしながら新しい調査協力者を得てデータ収集を前進させることは必要なので、これまではすでにZoomが使える方に限定していたオンラインによる調査をZoomを使った経験がない方にも広げることを模索したい。一つの方法は、モバイル・ルータと端末の貸し出しによるオンライン調査である。次年度はこの方法が実現可能なものかを検証したい。 また、既存の文献から抜き出したデータをデータベースに登録する方法も引き続き行なっていきたい。研究代表者ができるだけ分析に集中できるようにするために、データの抜き出しそのものはできるだけアルバイタを雇用して行うことにする。 当初の研究計画では動詞形態法における分節音の交替を主な分析対象にする予定だった。しかし、2021年度の調査で脚韻のようなリズム上の単位が語形を決める上で重要な役割を果たしていることがわかったので、文献からデータを抜き出す際にもオンライン調査を行う際にも分節音の後退とリズムの相互作用を意識して資料収集を行うことにする。 オンラインで公開できるデータベースを構築するために、データベースの在り方についても研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、コロナ禍により研究計画を予定通りに実施できなかったためである。伝統方言の話者が高齢者に多く、新型コロナウィルスの感染が高齢者にとって特に危険なため、従来型の面接調査により方言のデータをとることが困難になった。調査によって調査協力者の健康被害を起こすことは倫理的に許されないからである。このような背景からオンラインで調査を行うようになったが、オンラインでの調査は出張を伴わないため、使用する研究費の額が少なくて済むようになった。 また、コロナ禍以前は口頭発表でも発表会場まで行くための旅費が必要であったが、コロナ禍以降、研究会や学会がオンラインで開催されるようになったため、学会出張旅費が不要になった。複数回研究発表を行なったにもかかわらず、かかった経費は参加費だけであった。調査と発表の両方において旅費がほとんど使われなくなったことが次年度使用が生じた最大の理由である。 アルバイタを雇用しての文献からのデータの抜き出しは2021年度と同様続けたい。また、地方の図書館における文献資料の収集などの研究被害のリスクの少ない出張調査を計画するなどして、旅費を使った資料収集も進めていきたい。
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