研究課題/領域番号 |
19K00636
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
佐々木 冠 立命館大学, 言語教育情報研究科, 教授 (80312784)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 日本語方言 / 形態音韻論 / ウ音便 / 母音短縮 / 韻脚構造 / 水平化 / 最適性理論 / 循環性 |
研究実績の概要 |
2023年度は近畿地方の方言の動詞および形容詞の形態音韻論に関する調査を進めるとともに分析を行い、研究成果を3つの学会・研究会で公にした。主に分析の対象としたのは動詞と形容詞のウ音便とそれに伴う母音短縮現象である。 2023年4月16日に札幌国際大学で開かれた北海道方言研究会第237回例会で「母音短縮と母音延長:滋賀県大津市方言のウ音便」と題する発表を行い、滋賀県大津市の方言のウ音便で見られる長母音と短母音の交替は動詞の場合母音短縮で、形容詞の場合母音延長であるとする分析を公にした。 2023年10月21日に開催された日本方言研究会第117回研究発表会(オンライン)で発表した「滋賀県大津市方言のウ音便と母音長交替」では、動詞・形容詞のウ音便で生じる母音長交替はいずれの品詞の場合でも母音短縮であり、品詞によって母音短縮のあり方が異なるのは、品詞ごとに母音短縮の動機付けが異なるためであるとする分析を提案した。4月の北海道方言研究会での発表を部分的に否定する内容である。動詞における母音短縮は語幹が奇数モーラのワ行五段活用動詞でだけ生じることから2モーラの韻脚構造に動機づけられた現象であるが、形容詞の母音短縮は同じ形態統語的環境に出現する形容詞語幹への韻律上の水平化が動機付けであるため、語幹の長さが奇数モーラあるいは偶数モーラであることが関与的ではないとする分析を提案した。 2024年3月8日にポズナン(ポーランド)のAdam Mickiewizc Universityで開催されたLinguistics and Asian Language 2024の基調講演「Vowel length alternation in Otsu Japanese」は日本方言研究会で発表した分析を最適性理論でとらえ直したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
この研究計画は進捗の遅れはコロナ禍による方言調査実施の困難によるものである。2022年度まで対面での調査が困難であったことが研究計画進捗の遅れの原因となっている。Zoomを用いたオンライン調査によるデータ収集も行ってきたが、十分な量の調査ができたとは言いがたい。データの集まりの遅れが分析の遅れにもつながっている。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度はコロナ禍が終息しているので対面による調査を積極的に進め、データ収集における遅れを取り戻したい。また、コロナ禍の間に実施してきたZoomによるオンラインでの調査も引き続き行い、データ収集に役立てる。 集まったデータをもとに分析を進め、研究成果を公にしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、2023年度初頭までのコロナ禍による行動制限が原因である。コロナ禍の下で対面調査を新たに計画することが困難になり、調査で旅費を使うことが難しくなったためである。調査自体はZoomを使ったオンライン調査のかたちで継続したが、この方法だと当初予定していた旅費は使用されない。このような事情で当初想定していたよりも支出が少なくなったため、次年度使用額が生じた。 2024年度はコロナ禍の影響がほぼなくなったため、調査のための出張も積極的に行う。ただし、感染予防対策についてはコロナ禍の下で積んだ経験を活かし、調査被害が生じないように心がける。
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