研究課題/領域番号 |
19K00642
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
澤田 浩子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (70379022)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | コーパス / ジャンル / 場面 / 発話機能 / 構文 |
研究実績の概要 |
本研究は、複数の言語コーパスを横断的に活用することで、日本語における構文とコミュニケーション行動との関係を解明することを目的とするものである。3か年で「動詞句に関する構文」「名詞句に関する構文」「文構造に関する構文」を順に見ていく計画で、同じ発話機能を持つ構文であっても、文章のジャンルや会話の場面が異なれば、異なるコミュニケーション行動に結び付くことを明らかにする。 2019年度は、まず「動詞句に関する構文」として「助言」に関するモダリティ形式(V-たほうがいい/ V-たらいい/V-ればいい)の分析を行った。使用したコーパスは、『現代日本語書き言葉均衡コーパス』『タスク会話コーパス (基盤研究( C ) 「日本語学習者の母語場面・接触場面を対象とした対話コーパス」』 である。これらのコーパスの談話中のどのような環境で「V-たほうがいい/ V-たらいい/V-ればいい」の3形式が出現するかを分析した結果、①「助言を求める側」と 「助言を与える側」で使用されるモダリティ形式が異なること、また、②同じ助言を与える場合でも「未来に予定されている旅行に関する助言」と「現在すでに書かれている申請書の書き方を改善する助言」で用いられる形式が異なることの2点を指摘した。すなわち、「助言を求める側」は、どのような場面でもこれら3形式をすべて用いるが、「助言を与える側」は、「現在すでに書かれている申請書の書き方を改善する助言」の場面においては3形式を用いるのに対し、「未来に予定されている旅行に関する助言」の場面においては「V-たらいい/V-ればいい」の2形式はまったく用いていないことが分かった。 このように、同じ「助言」にカテゴライズされる発話場面であっても、場面によって「助言者」としてのコミュニケーション行動は異なっており、したがって、そこで利用される構文も異なることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、日本語における複数の構文を取り上げ、言語コーパスを横断的に分析することで、構文とコミュニケーション行動との関係を解明することを目的とする基礎的研究である。3か年で、「動詞句に関する構文」「名詞句に関する構文」「文構造に関する構文」を順に見ていく計画である。2019年度は、そのうち「動詞句に関する構文」を扱い、当初予定していた「助言」に関するモダリティ形式を分析することができた。対象としたコーパスは2件と、当初の計画と比べるとやや少ないものの、その中でも十分な場面間のコントラストを得ることができており、おおむね予定通り研究が進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
残りの2カ年で「名詞句に関する構文」「文構造に関する構文」を順に見ていく計画である。そのうち、2020年度は「名詞句に関する構文」、特に 名詞に付加して主題を示す「助詞・複合辞」を取り上げる。 すでに『現代日本語書き言葉均衡コーパス』を用いて「話題提示」を表す複合辞を調べたところ、「Nとは」は平叙文と共起することが多かったのに対し、「Nって」は疑問文と多く共起し、聞き手に情報を求めたり、共感を求めたりする文脈で生起することが圧倒的に多いことが分かっている。これは、実際のコミュニケーション場面において、「Nって」は「話題提示」をした上でさらに「相手と情報を共有し共感を求める」行動と結び付きやすいことを意味している。このことを手掛かりに、2020年度は「Nとは/Nって/Nといえば」の3形式の出現環境とその発話機能との関係について分析を行う。 対象とする言語コーパスは、次の3件を予定している。書き言葉コーパスについては『現代日本語書き言葉均衡コーパス』を、話し言葉コーパスについては『タスク会話コーパス (基盤研究( C ) 「日本語学習者の母語場面・接触場面を対象とした対話コーパス」)』と『日本語話し言葉コーパス (旧名大会話コーパス)』 の2つである。これは、会話の場面、会話の目的(タスク会話のように目的があるもの、雑談のように特段の目的がない物)、会話参与者の属性(大学生、社会人等)の重なりに配慮して選定した。 これらコーパスが含む言語データのコミュニケーション上の特性を整理し、コーパス間での比較研究を行うことで、構文とその発話機能との結びつきをより明らかにすることができると考える。さらに、構文の発話機能をコミュニケーション行動と結び付けて記述することで、 プロフィシェンシーを重視する現在の言語教育に最適化した形で知見を提供することができると考える。
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