本研究は、複数の言語コーパスを横断的に活用することで、日本語における構文とコミュニケーション行動との関係を解明することを目的とするものである。 2021年度は、「思考・判断」等を表す文末名詞文を分析した。同じ名詞であっても、特定のジャンルにおいて文末名詞文で用いられる頻度が高いものがある。例えば、「考え」という語は、BCCWJ全体では、総出現数のうち6.8%の割合で文末名詞文の形で出現するが、〈新聞〉においては27.8%の割合で文末名詞文の形で出現する。同様に「方針」「覚悟」「意向」の 3 語が〈新聞〉で、「予感」が〈知恵袋〉において、特に高い割合で文末名詞文として使用されている。「考え」や「方針」という語自体はどのジャンルにもおよそ均等に出現することを考えると、「考え」や「方針」が文末名詞文として〈新聞〉で多用されるのは、あくまで「~する考えだ」「~する方針だ」というコロケーションにおいて見られる偏向性であると考えられる。また、述部形式に着目し、「ダ形」「デス形」「φ(省略形)」の3形式との接続の割合を見ると、「感じ」「予定」「感想」「考え方」の 4 語は「デス形」との接続が多く、「感触」「印象」「予感」の 3 語は「φ(省略形)」で特徴的に多い。〈知恵袋〉のような比較的、口語表現を反映したテキストや、〈新聞〉〈雑誌〉〈書籍〉に含まれるインタビュー記事などで、発話の直接引用のテキストがあることなどを考えると、デス形、省略形の割合が高いことが話し言葉らしさを反映していると考えられる。なお、「つもり」「感じ」「予定」の上位 3 語は、〈新聞〉〈知恵袋〉どちらのジャンルでも高い割合で文末名詞文として使用されており、これらは特にジャンルの偏向性を持たないことが明らかになった。
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