研究課題/領域番号 |
19K00657
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
大谷 直輝 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (50549996)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 構文文法 / 認知言語学 / 用法基盤モデル |
研究実績の概要 |
研究計画の2年目である2020年度は、「人間が持つ言語知識は繰り返される言語使用の中から創発をする」と考える用法基盤モデルに基づく実証的な言語研究を進めると同時に、学際的な研究を行うためのネットワークの構築を行った。 第一に、用法基盤モデルに基づく学際的な言語研究の可能性を示した編著書『認知言語学と談話機能言語学の有機的接点』をひつじ書房から出版することで、接点が少なかった認知言語学と談話機能言語学が共通の目的を持つ言語研究であることを示した。第二に、日本認知言語学会において「構文文法の根本的な考え方について考える」ワークショップを行い、今後の構文文法の研究を進めていく上で必要となる共通の認識を確認した。第三に、認知言語学におけるコーパスを用いた実証的な言語研究手法をまとめ紹介する原稿を執筆した(2021年度出版予定の『実験認知言語学の深化』に掲載予定)。第四に、構文文法の観点からspray/load構文によって運ばれる談話機能を分析した論文を執筆した(Gragoataに掲載)。第五に、用法基盤モデルの実証的な研究を深化させるため、3名の自然言語学者と、英語の文法家を定量的にとらえる共同研究を開始した。第五に、研究結果を社会に還元するために、連続講義(朝日カルチャーセンター新宿校、6回)を行うと同時に、Youtube上で、「認知言語学と談話機能言語学の有機的接点」をテーマとした座談会を行った。第七に、談話と認知の研究の世界的な権威であるWallace Chafeの著書の書評を行った(『English Linguistic』に掲載)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究がおおむね順調に進行していると考える理由は以下のとおりである。 1点目は、本研究の出発点となる「人間が持つ言語知識とはどのようなものであるか」を研究するための学際的な研究体制が構築できたからである。特に、言語学においては用法基盤モデルの二つの流れである認知言語学と談話機能言語学の接点に注目をした論文集を発行することで、これまでは学際的な交流が少なかった研究者に対して、実証性の高い共同研究の可能性を示した。 2点目は、言語を研究するための方法論において、積極的な研究活動ができたからである。特に、『実験認知言語学の深化』という認知言語学の方法論における一つの集大成となる本に、コーパス研究の研究手法を紹介する章を執筆できたこと、また、今後の学際的な研究に向けて、自然言語処理の専門家との共同研究を開始した点は大きな進展といえる。 3点目は、構文に関する具体的な現象の記述が進んだからである。特に、構文文法の中心的な人物である、Martin Hilpert氏が編集する論文集に、項構造構文の論文を執筆した点、これまで継続して行っているbetter off構文の歴史的な調査を本格的に開始した点、言語理論と英文法の接点を意識した論文集を編集している点から、記述面の研究が順調であることがうかがえる。 また、主催している研究会(ことばと談話認知研究会)も10回以上行い、共通の問題意識を持つ研究者との交流を日常的に行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は2021年度に構築した学術的なネットワークを利用しながら、学際的・実証的な方向へ研究を進める予定である。 第一に、本研究計画の根幹となる理論である構文文法の可能性を多角的な観点から検討していく。そのため、構文文法の権威であるMartin Hilpert氏とをディスカッサントに迎え、用法基盤モデルに関する最先端の件を行っている研究者4名と、日本認知言語学会においてワークショップを行い、構文文法の今後の可能性について検討を行う。第二に、自然言語処理の研究者との共同研究を進めることで研究の可能性を方法論の面から広げる。特に、言語学に対する自然言語処理の貢献として、実証的な言語研究の方法論として自然言語処理の手法を用いる研究を進めると同時に、自然言語処理に対する言語学の貢献として、言語学的な問題点や理論的な示唆を強く意識した自然言語処理の研究を始めることで、両分野の学際的な研究を行うことを目指す。第三に、金澤俊吾氏(高知県立大学)、柳朋宏氏(中部大学)と、企画をした論文集『語法と理論との接続を目指して―英語の通時的・共時的広がりから考える17の論考』(ひつじ書房)の完成を目指しながら、理論と記述の融合に関して考察していく。第四に、コーパスを用いた応用的な研究として、『英語コロケーション辞典』の編集を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由はいかのとおりである。第一に、参加を計画していた国際学会での発表が新型コロナウイルスによって延期になり、参加できなくなったためである。第二に、共同研究促進や学会発表に関する国内の出張も新型コロナウイルスの影響でほとんどが不可能となったからである。 使用計画については以下のとおりである。第一に、新型コロナウイルスの流行の状況にもよるが、これまでに行った研究をまとめ、国際学会にて研究発表を行う予定である。第二に、対面での共同研究が難しくなった現状を踏まえ、オンラインでの研究を円滑に行うための設備を整える。第三に、心理実験やデータの構築等、実証的な研究を行うための研究に力を入れる。研究に伴い、人件費や謝金が発生することとなる。
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