研究実績の概要 |
2019年度は、英語比較級構文 (the English comparative constructions) の通時的発達について、各種レジスタ(言語使用域)における分布を中心に調査した。世界の諸言語と同様、英語においても、形態的複雑性を失う傾向にあることが広く指摘されている。例えば、Brook (1973: 180) は、“-er and -est are being replaced by forms with more and most” と述べている。先行研究に見られる主張 (「分析化仮説」) は、確かに、古英語の時代との比較においては、正当なものといえる。しかし、言語使用を詳細に調べてみると、分析化の進行が確認されないレジスタがあることが分かる。当該年度では、コーパスデータとその量的分析を通じて、英語比較級構文の分析化の進行は、レジスタ間においてかなり豊かな分布上の違いがあることを立証した。主に用いたコーパスは、Corpus of Historical American English (COHA) であった。COHAは1810~2009年のアメリカ英語4億語以上を収めた巨大コーパスである。COHAを用いた研究の主な焦点は、1) レジスタ間における通時的トレンドの有無、2) 変化の構造、3) 各レジスタとの結びつきの変化、であった。これらの研究の結果、分析化は、英語比較級構文が現れる全てのレジスタで均一に起こるものでないこと、すなわち、そこには豊かなレジスタ変異が見られることが確認された。これは、認知社会言語学的観点 (e.g. Croft 2009; Geeraerts, Kristiansen, & Peirsman 2010) から見て、重要な知見である。なぜなら、研究結果は、言語研究にとって、レジスタ研究が非常に重要であることを強く示唆するからである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Corpus of Global Web-Based English (GloWbE) のデータ分析を行い、英語の20変種 (方言) (United States, Canada, Great Britain, Ireland, Australia, New Zealand, India, Sri Lanka, Pakistan, Bangladesh, Singapore, Malaysia, Philippines, Hong Kong, South Africa, Nigeria, Ghana, Kenya, Tanzania, Jamaica) における、英語比較級構文と分析化の関係を調べていく。なお、International Corpus of English (ICE) も適宜使用する予定である。分析には、各種クラスタリングの手法やロジスティック回帰分析などを用いる。これらの研究により、世界諸英語の観点から多くの新しい視点の提供が可能となるであろう。 当該研究の分析結果の解釈は、認知社会言語学の観点から行い、英語比較級構文に見られる言語変異と言語変化の諸問題を統一的に論じていく。当該研究の知見は、認知言語学のみならず、歴史言語学、社会言語学、コーパス言語学を含む言語研究の多くの研究領域において、広く有用なものとなるであろう。研究成果は、学会発表やジャーナルへの投稿などを通じて、積極的に発信していく。論じる内容は主に、1) 英語比較級構文での分析化現象について何が明らかになったのか、2) 世界の言語で見られる分析化現象にとって何が示唆されるのか、3) 本研究の研究成果は今後の言語学の発展にとってはどういった意味を持つのか、である。研究成果は、最終的には、報告書としてまとめると同時に、書物として刊行するための道筋もつけていきたい。
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