研究課題/領域番号 |
19K00664
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研究機関 | 福岡教育大学 |
研究代表者 |
岡 俊房 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (00211805)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 一致 / 格 / ラベル / 転送 / 対称性の破れ / 線形化 / T標示 / 長距離一致 |
研究実績の概要 |
本研究では、三つの問いを立てている:1. 「格」とは何か、2. 「ラベル」は存在するのか、3. 「素性一致操作(Agree)」はいったいどのような操作か。本年度においては、1と2については、満足のいく理論構築に到達できたと考えている。3については21年度以降の課題としたい。 格の理論は、すなわち素性および素性一致の理論である。Oka (2000)以来素性一致の研究を続けてきたが、1つ重要な点を置き去りにしてきた。それは、There is a book on the desk / There are books on the deskのような存在構文に見られる、いわゆる「長距離一致」の現象である。Oka (2000)の提案だけではこの基本的な現象を説明するのに不十分であった。本年度の研究では、Gueron and Hoekstra (1988, 2004)のT連鎖(T-chain)理論を素性一致メカニズムに取り込むことで、長距離一致現象を「素性一致の連鎖」として説明することに成功した。 ラベルについては、先行研究においては、もっぱら語現象を説明するメカニズムとして論じられる。本年度の研究では、Chomskyが論じるEPPとECPの統一的説明に対して、位相理論(とくに転送の条件とタイミング)と素性一致理論(とくに補文標識一致)を発展させることで、ラベルおよびラベリングを仮定することなしに説明できることを示した。また、「対称性の破れ」についても、説明対象となる統語現象の範囲を拡げるとともに、どのみち必要な「線形化」のメカニズムに関して素性一致を組み込んだアルゴリズムを提案し、ラベル理論以上の説明力があることを示した。これらにより、ラベルそのものを統語理論から排除することに成功した。 これらの成果については、開拓社より2021年6月に刊行予定の著書(共著)にまとめられている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、コロナ渦により、当初の実施計画・方法に様々な影響があった。とくに、国内外の研究者と直接会って議論することを主たる方策としていたが、叶わなかった。そのため、執筆中の著作に専念することとした。開拓社から刊行される最新英語学・言語学シリーズ第2巻「移動を巡る諸問題」(共著)の第2章「素性一致メカニズムと移動現象」の執筆が概ね2019年度に目途がついていたが、2020年度注意にさらなる推敲を重ねる中で、理論的な精緻化を進めることができ、「5.研究実績の概要」で述べたように、素性一致の理論がほぼ完成した。この著書は2021年6月に刊行予定である。 順調に研究が進む中でやり残したこともある。当初、長距離一致については、提案する素性一致メカニズムを用いてアイスランド語等の奇態格構文を分析する予定であったが、未着手に終わった。これには、英語の虚辞構文の分析が想定していた以上に進んだため、奇態格構文に言及せずとも十分な理論的成果が得られた、という側面はある。しかし、やはり奇態格構文を分析することで理論の強化を進めるべきであると考える。これは今後の課題としたい。また、素性一致操作を非顕在的主要部移動と捉え直すことで束縛現象や元位置wh現象の説明し、そうすることでより極小主義的な統語論研究の枠組みを作る、という本研究の三つ目の目標に向けた取り組みに立ち入ることができなかった。 以上のことにより、十分な研究は行えたが計画以上ではないため、「(2)おおむね順調に進展している」とする。
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今後の研究の推進方策 |
まず、「素性一致理論の構築」については、著書も刊行されるので、それを契機により積極的に性発表を行いた。本年度芳しくなかった他の研究者との交流を通じて、議論を深め、より望ましい理論に発展させていくことを目指す。さらに、英語論分を執筆し、より広く成果を発信したい。 また、「非顕在的主要部移動」による素性一致メカニズムについても、束縛現象や元位置wh現象をより詳細に検討し、他の研究者と議論をしながら発展させ、成果をまとめたい。 研究遂行方法として、自分のアイデアを明確にし、また新たなアイデアを得るために、国内、海外を問わず、本研究と関連のある研究を最先端で遂行していると直接交流する機会を持って議論を深めることを最優先するが、その際、直接会うことにこだわらず、メールやZoom等を活用することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、新型コロナ感染症の影響等もあり、国内、海外の研究者と直接会って議論する機会が十分に得られなかった。そのため当初想定していた旅費が使われずに残ったため次年度に回すこととなった。次年度は、本年度未使用分も活用し、可能な限り研究者との交流を行うこととする。また、次年度もコロナ渦が続く場合は、情報収集・資料収集目的で既存の文献等を活用するために図書の整備を充実させたい。
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