研究課題/領域番号 |
19K00664
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研究機関 | 福岡教育大学 |
研究代表者 |
岡 俊房 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (00211805)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 非顕在的主要部移動 / 素性一致 / 束縛理論 / 同一指示 / 長距離再帰形 / (反)主語指向性 |
研究実績の概要 |
素性一致操作のメカニズムの解明に取り組んだ。この操作は、二つの連続するプロセスからなる。第一には、統語的な非顕在的主要部移動(集合併合)による統語体(二つの主要部からなる集合)の形成というNarrow Syntaxにおけるプロセスであり、第二には形成された統語体に対する形態的操作(一致する素性の削除)というExternalization(外在化)というプロセスである。 これを正当化する一つの方法は、二つの主要部間の局所的関係が意味解釈の対象ともなりうることを示すことである。たとえば、束縛現象が対象となる。… α … β… γ …の構造においてβとγが素性を共有する場合に、βがγをC統御する構造においては、αはその素性に関してγにアクセスできない。移動や素性一致にみられる「介在効果」であるが、これは統語部門における探索の失敗によるものである。これはまさに束縛条件Cの構造である。例えばβをhe、γをJohnとすると、heとJohnは同一指示とはならない。ここでαが補文標識Cとして、αがβとγを探索し、βとγはそれぞれαに移動(内的併合)して、統語体{α, β}と{α, γ}が作られる。これに外的なC-I (Conceptual-Intentional)システムがアクセスして同一指示解釈が生じる。しかし、βがγをC統御する構造では介在効果により、αとγは併合できない。結果的に同一指示解釈に必要な統語体が作られないことになる。基本的にはこのような発想である。これを束縛条件Cだけでなく、条件BおよびAにも応用することで、束縛条件A, B, Cを統一的に説明することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度においても、コロナ渦により当初の実施計画・方法に大きな影響があった。とくに、国内外の研究者と直接会って議論することを主たる方策としていたが、その機会は限定的であった。 その一方で期待以上の成果が得られる部分もあった。コロナ渦により出張ができなかった分、思考の時間が確保され、理論についてより深く考えることができた。その結果、素性一致操作に限定することなく考察範囲を拡げ、別の観点から研究を見直すことができた。それにより、より大きな視点で自己の素性一致理論の正当化が可能となった。特に、理論的展開が滞っている束縛現象に関して、非顕在的主要部移動による画期的なアプローチを開発し、理論面のみならずカバーする経験領域を広げることができた。この方向で成功すれば、関連分野に大きな転換をもたらすことができるであろう。 以上のことにより、期待以上の研究は行えたが未実施の部分もあるため、「(2)おおむね順調に進展している」とする。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、新型コロナ感染症の影響等もあり、国内、海外の研究者と直接会って議論する機会が十分に得られなかった。そのため当初想定していた旅費が使われずに残ったため次年度に回すこととなった。次年度は、状況が許す限り研究交流を行うこととする。また同時に、情報収集・資料収集目的で既存の文献等を活用するために図書の整備を充実させ、先行研究を緻密に調べたうえで自身の理論を批判に耐えられるよう精緻化していくとともに対象とする現象を拡げていきたい。具体的には、元位置Wh現象を束縛現象と同じアイデアのもとで解明していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの状況下で学会や研究会が開催されず、予定していた出張を断念したせいで旅費が大幅に残ったため。
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