研究課題/領域番号 |
19K00669
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
椎名 美智 法政大学, 文学部, 教授 (20153405)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ポライトネス / インポライトネス / 呼びかけ語 / 初期近代英語 |
研究実績の概要 |
本研究は、コーパス・アプローチによる英語学の歴史社会語用論的ポライトネス研究である。過去のスピーチ・アクトの様相を、主としてポライトネス理論を使って論じることが目的であった。今年度は、「卑語(abusive vocatives)」に焦点を当てて、初期近代英語期の口語表現を集めたコーパスを量的・質的に分析した。卑語や悪態のみに焦点を当てていては特徴が明確にわからないので、今回は性格が異なるものの構成要素的には類似した性格を持つ「親愛語(vocatives of endearment)」と比較対照して、その語用論的特徴について分析し考察した。 研究成果は、以下の学会誌に発表した。なお、学会誌は2021年6月に発刊予定である。 ・「悪態はなぜ多様性に富むのか?ーー初期近代英語期におけるインポライトネスーー」『近代英語研究』第37号 本論文では、卑語と親愛語という語彙的に対照的な意味合いの2種類の呼びかけ語の構成要素の語彙的特徴を量的に調査した上で、具体例を質的に分析した。卑語と親愛語は対話者に対する正反対の心理的態度を表すものだが、語用論的には、いずれも話し手を上位に、聞き手を下位に位置づける呼びかけ語である。文脈や人間関係によって語用論的意味合いは変わるが、基本的には、両方とも近接化ストラテジーとして使用されるもので、前者が敵対心や嫌悪感を示し、相手を侮辱するインポライトな言語行為だとしたら、後者は友好的な態度や親愛の情を示すポライトな言語行動と言える。相反する意味合いを持つこれらの呼びかけ語は、強い感情を示すという共通点はあるものの、語用論的には多くの相違点があり、単純な二項対立では捉えきれない性格のものだとわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、新型コロナの感染の影響で、国内外の学会活動に制限のある年であった。学会で発表する機会はなかったが、執筆に専念することができたので、それなりの成果は出せたと考えている。今年度に執筆した原稿は、来年度以降に発刊される予定である。
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今後の研究の推進方策 |
リモートによる研究発表が定着してきたし、学会も中止されることなくリモート開催がなされるようになったので、今後はリモートの形で研究成果を発表していきたい。共同研究や研究成果を公表する研究会等も、リモート形式で継続していくことにより、当初の計画通りに研究を進めていきたい。ただ、今後の見通しがよくわからない状況なので、口頭発表よりも、論文執筆による研究発表に重点をおいて研究活動を続けていく方針に方向転換した方が良いかもしれないので、少し方針を考えてから研究を継続していきたい。 今後はスピーチ・アウトに影響を与えるモダリティに注目した分析をしていきたい。また研究をまとめる年度になるので、研究全体を捉えられる大きな視点から研究を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、新型コロナの感染により、国内外の学会への出張が中止されたことが大きい。2020年度は、多くの研究会や学会に行き、国内外の言語学者の発表を聞いたり、ディスカッションをすることにより、交流をして、自分の研究にも反映させる予定だったが、それらが全て中止されるか、リモート開催になったために、旅費として計上していた予算が使用できなかった。また、他の研究者たちに直接に会うことができなかったので、クチコミによる研究会等の情報もこれまでほどは入らなくなっていたかもしれない。よって、次年度使用額が生じてしまったのだと考えている。科研費申請時には予測できない事態で、どのように対応して良いのかわからなかったため。今後は、実際に現地で行う学会活動に変わる研究活動の形態を探ると同時に、リモート開催への出席に備えて、器具の整備のために予算を使いたいと考えている。
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