最終年度の最大の業績は『イン/ポライトネスーーからまる善意と悪意』という論文集を共編著したことである。数人の研究者に執筆を依頼し、英語と日本語におけるインポライトネス研究の論文を集めることができた。本書は「インポライトネス」という語句がタイトルについた本邦初の研究論文集であるという意味で、歴史語用論研究上、意義のある研究書になった。 内容的に重要な点は、インポライトネスはポライトネスの反対概念であるものの、実際の言語運用を詳細に分析すると、ポライトネスの規則を逆転させるとインポライトネスの規則になるわけではなく、ポライトネスの規則や期待を外れるとインポライトネスになるということである。ポライトネスを外れる方法は一様ではなく、多様性に富むこともわかった。その場で期待されるポライトネスの規則を守らなければインポライトになるし、相手の期待を上回る外れ方をすればインポライトネスの度合いは高まる。また疑似ポライトネスや疑似インポライトネスといった、語彙だけを分析していては正確な意味合いがわからない現象も観察できた。日本の歴史語用論研究では、インポライトネスの研究はあまり行われていないので、先駆的な研究が公表できたと考えている。 学会活動としては、オーストラリアで開かれた国際英語学会( International Meeting of the Internatioal Society for the Linguistics of English)にて、初期近代英語期の裁判記録におけるモダリティの分析を、共同で発表した。 研究期間全体を通して、初期近代英語期の口語表現に注目した研究を行なってきたが、共同、単独での研究発表、論文執筆、講演など、実りの多い研究活動ができたと考えている。
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