最終年度は、アスペクト表現(「~ている」)と伝聞表現の補文標識(「という」)が主格属格交替に及ぼす影響を考察した。前者は「目の前」性(眼前性)が関与することから、表現者の出来事との関わりを示すという点において「証拠性」表現であるとみなすことが可能であり、後者は伝聞表現を担う典型的な表現形式として知られている。「ている」が付加された場合、通常では許容できない属格主語が可能となることを指摘し、後者については、標準日本語では文法化によって典型的な補文標識「と」と同等のものとして確立しているが、関西方言では、口語的に用いられる「ちゅう」が、標準日本語の「という」と異なる振る舞いをする時があることを、主格属格交替の観点から観察した。これまでの研究で扱ったのは数量詞遊離現象と主格属格交替にみられる証拠性の影響であるが、証拠性などの認知・意味的概念と統語構造との関係を見る上において、認知言語学と生成文法の関係性についても考察を深めることができたのが副産物であった。2000年代に入って追求されてきたMinimalist Programが、豊かなUGを捨て、最小のメカニズム(merge)にUGを限定することにより、Marantsのいう「End of Syntax」化が進んだ。現在の生成文法では、第三要因とmergeによって、どれだけ言語(統語)現象が説明できるかが研究対象になっているが、どれほどの実証性を持ったものかどうかは、現段階では不明であるというのが現状である。Chomskyの方法論的自然主義に立脚した「楽観的」な方向であることを認識しておくことが重要である。今回の科研費での「ChomskyとJespersenについて」の発表がデンマークの言語学者Has Basboll;ll氏の論文 (Basboll(2023:324))でAkaso(2019)として言及されたことは名誉なことである。
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