研究実績の概要 |
2019年度は、不定冠詞と所有代名詞から成る二重決定詞(例:a(n) his book)と呼ばれる構文の消失と後置属格と呼ばれる構文(a book of his)の出現について、調査・分析を行った。Heltveit (1969)やFischer (1992)などの先行研究によれば、二重決定詞において不定冠詞と所有代名詞が同一名詞句内で共起できなくなったため、hisが名詞の後ろに置かれるようになり、名詞とhisの間にofが挿入され、後置属格が出現したと言われている。 二重決定詞と後置属格の歴史的分布の関係について、史的コーパスYCOE, PPCME2, PPCEME, PPCMBEを用いて調査を行い、2つの構文の消失と出現には有意な相関関係があることを示した。つまり、中英語初期に二重決定詞が消失した後に、後置属格が出現し始めていることを明らかにした。 次に、後置属格の発達のメカニズムの要因について分析を行った。具体的には、不定冠詞は中英語以前は数詞として構造的にD(eterminer)P(hrase)(限定詞句)よりも低い位置を占めていたが、後期中英語以降、D主要部を占める要素へ文法化したと仮定し、同じくD主要部を占める要素へ発達した所有代名詞(Ibaraki (2009))と競合するようになったため、両者は名詞前位位置で共起できなくなったと主張した。 これらの研究成果の一部は、日本英文学会中部支部大会のシンポジウムで報告を行い、学術雑誌の近代英語研究に掲載が決定している。今後は、より不定冠詞の発達に焦点を当てて、コーパス調査・分析をおこなっていきたい。
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