英米演劇の対話の文体分析と精緻化コーパスの作成

2021 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 19K00676
• 研究機関: 福岡女学院大学
• 研究代表者: 能勢 卓 福岡女学院大学, 人文学部, 准教授 (70626837)
• 研究期間 (年度): 2019-04-01 – 2023-03-31
• キーワード: セリフの文体分析 / 英米演劇 / コーパス言語学 / 電子化テクストの作成 / 談話情報付加コーパス / マニュスクリプト研究

研究実績の概要

コミュニケーションにおける発話者のメッセージの効果的伝達に関する文体研究は、有効且つ重要な研究であると考え、本研究において次の3点を中心に研究を行う予定である:
(1)これまでの英米演劇作品の文体研究において作成したEugene O’Neillの50作品[約107万語]のコーパスに談話情報と意味情報を付加した精緻化コーパスを作成し、その上で英米演劇テクストのコーパスを用いた台詞の文体研究を発展させていく[なお比較検証のために同時期の劇作家の演劇作品のコーパスの作成も行 う]。この精緻化コーパスの作成のポイントは、50作品107万語の全ての台詞の中で特定のカテゴリーの話者と聞き手の語彙的特長やコロケーション語の特長を比較・分析することが可能になるところにある。それは例えば、50作品の全ての台詞の中で父親が娘に対して発話している台詞を抽出しword list を作成した上で、同様に母親が娘に発話している台詞を抽出しword listを作成することで、両者の語彙的特長の差異があるかを調査することが可能となる。
(2)マニュアル作業で確認をした談話情報(例えばSpeakerやHearer情報など)をXML Editorのマークアップの形式に自動的に組み上げていくためのプログラムを 開発する。この自動化プログラムにより、本研究において費やしているマークアップ作業の膨大な労力と時間が大幅に改善されるだけではなく、本研究と同様に談話情報をマークアップして精緻化コーパスを作成している他の研究者の研究活動に対して貢献することも期待出来る。
(3)コーパスを用いた多角的文体分析に加えて、劇作家のアイデアノートやマニュスクリプトを調査・分析することを通して、創作過程において台詞に施された 言語的工夫のプロセスの検証から、演劇作品の台詞における効果的言語化の一端を明らかにしていく。

現在までの達成度 (区分)

4: 遅れている

理由

2021年度は、Covid-19の感染拡大の影響で予定していた助手との研究作業の打合せや、PALA2021での研究発表など、幾つかの課題研究活動の遅滞が避けられない状況となった。しかしそのような状況下ではあったが、次の2点において研究活動の進捗を図ることができた:(1)O’Neillの50作品の談話情報のマークアップ作業、並びに比較対象としてのMaughm作品に談話情報を付加するマークアップ作業;(2)データのエラー修正
上記の(1)に関しては、O’Neillの50作品[約107万語]中の42作品の作品に対し 談話情報[Social Statusや登場人物間の関係性]のタグ付けを行なったマークアップデータの作成までを完了した。また(2)については、一つには能勢が構築しているコーパスはエクセルに記述した談話情報を自動的にマークアップするシステムを作成したが、そのシステムの記述にマイナーなエラーが発生したので、まずはそれらを修正した。そしてそれとは別にマークアップ作業を施したコーパスからの情報抽出のエラーに直面したので、その解消方法について検討を続けた。この情報抽出時のエラーについては2022年度も対策を引き続き検討を続けている。

今後の研究の推進方策

今後の研究の推進に関しては、O'Neillの残りの8作品[The Sniper, Ile, The Moon of Caribees, The Straw, Emperor Jones, The Hairy Ape, Strange Interlude, Dynamo, Iceman Cometh]の談話情報のマークアップ作業を行いO'Neill作品の精緻化コーパスを完成させた上で、比較のためのMaughamとWilderの作品の電子化コーパスを作成とそれらの精緻化コーパスへと発展させていく。今年度で現在の科研の課題研究の中のO'Neillのコーパスについては年度内に完成を目指していく[なおO'Neillコーパスを完成させるときには助手とともに最終チェックも行う予定である]。またコーパスから情報を抽出していく上で発生するエラーの解消については、新たにシステムを構築することも含めて対策を検討をしていく。

上記の研究活動を続けていく予定であるが、問題点としてはこれらの作業は助手との緊密な打合せが必要であるので、現在のCovid-19の影響がどの程度研究活動を阻害させるかを考えながら、研究活動を推進していく必要がある。

次年度使用額が生じた理由

Covid-19の影響により2021年度も大幅に行動を制限されたため、助手との打合せが進まず、その結果コーパスの作成やコーパスのエラー修正に必要なシステムの修正などが遅れ、結果的にそれら研究活動のための支出がなされなかった。また同様に2021年度に予定していた国際会議などでの研究発表や発表やマニュスクリプトの調査に関してもCovid-19の影響により2021年度も大幅に行動を制限されたため海外出張費ができず、結果として海外出張費用の支出が大幅に減った。
2022年度においては徐々にCovid-19に起因する行動制限が緩和されてきているので、O'Neillコーパスの完成やコーパスのエラー修正のためのプログラムのために助手との共同作業を2022年度こそは頻繁に行い、コーパスの完成と修正プログラムの作成をしていく予定である。残りの研究予算については、これらのデータやプログラムの作成にあたり必要となる出張費や謝金や作成費用などに使用していく予定である。