研究課題/領域番号 |
19K00679
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小野 尚之 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (50214185)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 語彙意味論 / 軽動詞 / 事象名詞 |
研究実績の概要 |
本研究は、名詞から動詞をつくるプロセスに事象統合(event integration)という意味の合成過程が広く関与することを実証的に明らかにすることを目的とする。名詞から動詞をつくるプロセスとは、名詞を基体とする接辞化、名詞から動詞への転換、さらに軽動詞構文までを含み、異なる言語現象でありながら、共通の原理が働いていることを示していきたい。本研究は、生成語彙意味論を理論的基盤とし、語彙の創造性を支える重要なしくみを、意味の共合成やタイプ強制といった観点から説明する。また、英語のみならず、日本語の分析によってもこの問題についての重要な示唆が得られることから、両言語の対照分析の観点から研究を進めていく。 本年度は、日本語の軽動詞構文の分析を行い、「軽動詞構文における強制と共合成-「する」と「ある」をめぐって」という論文にまとめた。本論文では、「[名詞]をする」と「[名詞]がある」を取り上げ、生起する名詞の種類とそれによって意味が合成される過程を明らかにした。本論文では、動詞と名詞のシンタグマティックな関係において、相互に意味を供給しながら述語を形成する仕組みを、Generative Lexiconの枠組みを用いて説明した。軽動詞の軽動詞たる所以は、補語名詞が意味の供給源となり述語を構成することにあるが、一般的に想定される「項」と「述語」の意味合成では、その本質は理解することはできない。本論文では、共合成と強制という概念を整理することで、軽動詞構文の述語合成に作用する意味合成の仕組みを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究プロジェクトは次の2つのことを研究の中心的なテーマとして設定している。 (i)個体を表す名詞がいかに事象に結びつき、その事象を動詞の意味として組み込むか、すなわち、名詞の事象がどのように動詞の事象に統合されるのかを明らかにすること (ii)日英語のデータを比較し、接辞化、転換、軽動詞に関わる意味生成を明らかにする。個体を表す名詞がいかに事象に結びつき、その事象を動詞の意味として組み込むか、すなわち、名詞の事象がどのように動詞の事象に統合されるのかを明らかにすること このうち、今年度は(i)の目的を達成するため、日本語の軽動詞構文に関わる研究を進め、成果をあげることができたと考えているので、研究計画に沿った進展があったと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまで継続的に進めている「動作主名詞の事象性」と「名詞の項選択」についてさらなる分析と成果発表を行う。海外の先端的な研究動向を知るためにも、国際学会への積極的な参加を進める。ヨーロッパで今年度開催予定だった国際会議に応募し採択されたが、新型コロナウィルスの感染拡大により、会議自体が来年に延期された。現下の状況では、今年度中の国際学会への参加は難しいかもしれないが、来年度は国際会議等での成果発信を積極的に進めていきたい。次の段階として、名詞の事象解釈の仕組みを「転換動詞」へと展開する。2020年度~2021年度は、さらに文献・資料の収集を継続するとともに、初年度にまとめた検討課題に、理論的な分析を加えていく。この期間の研究成果は、国内外のジャーナルに投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、国際学術会議への参加および研究課題に関連する書籍の購入など、計画に沿った支出をすることができたが、購入予定だった書籍の出版が遅れたため、その分の支出予定額を来年度に回すことになった。来年度は、予定通り購入する。
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