研究課題/領域番号 |
19K00680
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
鈴木 亨 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (70216414)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 英文法 / 逸脱表現 / 創造性 / 言語知識 / 言語使用 |
研究実績の概要 |
標準的な英語の語法・文法からすると逸脱的とされることもある表現の創発・受容のしくみの解明を通じ、言語知識の規範性と創造性の関係について再検討を進めている。従来の文法研究の分析手法に加え、文体論やコーパス研究を参照した多面的分析の視点を重視した。 本年度は、英語の動詞think の擬似他動詞用法について考察をまとめた(論文「動詞thinkの自他交替について-前置詞脱落の意味論」(2021年度内に出版予定))。基本的に自動詞であるthinkは、思考対象を指す名詞句は前置詞を伴うのが通例である。しかし、ややカジュアルな使用域では、直接目的語をとるthinkの疑似他動詞用法とでもいうべきものがある。本研究では、それらの擬似他動詞用法と関連表現を精査し、それらの文法的な成り立ちについて、前置詞脱落による自他交替における他動フレームの有標性を元に、構文的意味が自動フレームから否定的に導かれるという分析を提示した。この枠組みでは、有標の他動フレームにおいて否定的に導出される「直接関与」の解釈を中核とし、命令文や進行形での使用、無冠詞名詞の選択といった局所的な表現上の選択から、それぞれの使用場面に応じた具体的な解釈が付与されることになる。 従来の文法研究ではほとんど注目されてこなかった用法だが、確実に英語コミュニティに存在し、拡張しつつある表現の成立背景についての実証的研究は、逸脱表現の調整と組み換えのプロセスという言語使用の側面を包摂した文法モデルの構築に向けて有意義な考察材料となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、英語の動詞think の擬似他動詞用法について考察をまとめた(論文「動詞thinkの自他交替について-前置詞脱落の意味論」(2021年度内に出版予定))。基本的に自動詞であるthinkは,思考対象を指す名詞句は前置詞を伴うのが通例である。しかし,ややカジュアルな使用域では,直接目的語をとるthinkの疑似他動詞用法とでもいうべきものがある。本研究では、それらの擬似他動詞用法と関連表現を精査し,それらの文法的な成り立ちについて,前置詞脱落による自他交替における他動フレームの有標性を元に、構文的意味が自動フレームから否定的に導かれるという分析を提示した。この枠組みでは,有標の他動フレームにおいて否定的に導出される「直接関与」の解釈を中核とし、命令文や進行形での使用、無冠詞名詞の選択といった局所的な表現上の選択から、それぞれの使用場面に応じた具体的な解釈が付与されることになる。 昨年度までの研究で、活動動詞と形容詞という逸脱的な組み合わせ表現が、一定の語彙文法的・文体論的制約の下で拡張しつつあることを指摘し、それに伴う多義的意味解釈のしくみを理論的に考察した。さらに、“Think different”に代表される創造的逸脱と見なされる表現が、関連表現から複合的に構成される話者の言語知識のネットワークの中に位置づけられ、多層的な解釈を伴い受容・認可されるしくみを明らかにした。 今後は、分析対象とする逸脱表現を新たに確定するとともに、これまでに分析した逸脱表現を含めて、より統合的な視点から創発と受容における調整と組み換えという言語使用の側面を包摂した文法モデルの構築を進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
分析対象となる逸脱表現については、文体論的視点から形式性の度合いなどデータの質的特性に配慮しつつ、多様なジャンルにわたるテキストの精査(ジャーナリズム、広告、会話文、フィクション等)により、機械的なコーパス調査では確認しにくい、新奇な個別事例を収集する。補完的に、大規模コーパスを利用した史的・共時的調査を実施し、語彙と構文パターンで相互検索可能なデータベースの作成を行う。事情の許す限り、対面での関連事例の文法容認性調査や、学会・研究会への参加を通じた意見交換や情報収集も並行して進める。研究最終年度として、これまで明らかにした複数の逸脱的表現の成立条件の分析を基盤に、創造的逸脱表現の創発と受容における調整と組み換えプロセスという言語使用の側面を包摂した文法モデルの理論的構築を進める。
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