標準的な英語の文法・語法からすると逸脱的とされるような変則的表現の創発・受容のしくみの解明を通じ、言語知識の規範性と創造性の関係について検討を進めた。従来の文法研究の分析手法に加え、コーパス調査や文体論を参照した多面的分析の視点をとりいれた。 本年度は、英語の動詞think の擬似他動詞用法について昨年度にまとめた論文「動詞thinkの自他交替についてー前置詞脱落の意味論」(2022年3月刊行)に基づき、残された課題の解決に取り組んだ。具体的には、thinkの疑似他動詞用法と自動詞用法を2つの異構文の交替(Cappelle 2006)として位置づけた上で、話しことばやカジュアルな書きことばを含むコーパス調査に基づき、談話・語用論的機能を中心に関連表現の拡がりとその背景要因を分析した。コーパス調査の結果に基づき、疑似他動詞用法は特定のジャンルや場面に対応した独自の解釈や談話・語用論的機能を担い、多かれ少なかれ慣習的な表現(よくある言い回し)として一定の拡がりを見せて定着しつつあることを確認した。インターネットの普及による多様なスタイルの可視化とメディアの拡張は、thinkの疑似他動詞用法のような一見逸脱的な表現が認知される契機になるとともに、フォーマルなテクストの分析に依存するところの多かった従来の文法記述を、より多面的に言語使用に関わる側面を包摂した文法モデルの構築に向けて見直す必要性が明らかとなった。以上の考察を、論文「動詞thinkの疑似他動詞用法の拡がり」としてまとめた(学術論文集に投稿中)。
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