研究課題/領域番号 |
19K00683
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
藤 正明 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (30313381)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 経時安定性制約 / 短縮レジスター / 動的文法理論 / 代名詞主語制約 / 節中連結詞脱落 / 航海日誌英語 |
研究実績の概要 |
本年度も、標準英語では許されない節中連結詞の脱落(clause-internal copula drop)現象を研究した。
まず、航海日誌英語に焦点を絞り、データベース構築及びそれに基づく連結詞脱落制約の解明に向けた研究を推進した。具体的には、航海日誌レジスターで英語実験文を作成し、英語母語話者にそれらの容認度を判定してもらった。本年度の研究により、次の3点が明らかとなった。まず、口語英語及び新聞ヘッドラインの連結詞脱落の場合と同様に、航海日誌英語においても、補語の経時安定性が高いほど連結詞脱落が難しくなるという一般化(経時安定性制約)が存在していることが明らかとなった(cf. 16:00: A vessel is on our port side. Its name {is /*__} MITSUI MARU.)。 次に、人称代名詞が主語の場合、連結詞脱落が許されないという制約(代名詞主語制約)が航海日誌英語をも支配していることが母語話者による内省判断によって確認された。(cf. 9:00: We {are/*__} in position.)。第3に、補語が形容詞句の場合は、形容詞が一時的な状態を表す場合(time-stabilityが低い場合)とより長期にわたる状態を表す場合(time-stabilityが高い場合)で、容認可能性の判断に差があった。(cf. 09:00: Search operation is over. The result {is/___} negative. / 15:00: A vessel is anchored next to us. The vessel {is/ *__} huge.)
さらに本年度は、これまでの研究成果のうち、多様なレジスターで繰り返し現れる「経時安定性制約」の各レジスターごとの差異及び、それを動的文法理論により導き出すための基本方針を記述した研究報告を青山学院大学の紀要論文として出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画[2-2]の(ア)で述べたように、短縮レジスターからのデータを利用して、範疇階層(経時安定性)に基づく連結詞化(copularization)の偏りがあるかを調べることが研究計画の重要な部分を占めている。
本年度の研究により、英語新聞ヘッドラインの類例として、新たに航海日誌英語分野で、そのような偏りが存在していること を実証できたことは、研究が順調に進展していることを示している。
さらに、本研究には、研究実施計画[3]の(ウ)で述べたように、動的文法理論の整備を進める目的があるが、本年度の実績として、青山学院大学の紀要論文として、経時安定性制約の動的文法理論による解明に向けた基本方針をまとめることができたことは、研究計画が順調に進展していることを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究計画(ア)で示されている英字新聞のヘッドライン及び類似のレジスターに関して、当初の見通しでは気づかなかった、主節と従属節における階層構造の偏りに関して、より詳しく調査する予定である。
さらに、研究計画(ウ)と(エ)で述べられているように、動的文法理論による説明の開発継続と、その代案としての静的文法理論における分析(例えば、Richards 2010やBecker 2000)を検討するという課題がまだ残っている。
また、研究計画(イ)で述べられているように、さらに多様な言語領域で階層構造が存在するかどうか、そしてもし存在するならその特徴はこれまで調べてきた 口語英語や英字新聞ヘッドラインの場合とはどのように違うのかなどを観察したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
武漢ウィルスの広がりにより、母語話者に対する実験、学会への出席のための旅行などが十分にできなかったことが、このような差額が生じた主要な原因である。今年度は、感染状況を注視しつつ、母語話者への実験を行うことを考えている。
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