本年度は、英字新聞ヘッドラインの主節と従属節における連結詞削除の偏りを調査した。その結果、従属節には、主節に比べて、より厳しい制限があることが判明した。第1に、主節述語が受動態の場合、連結詞脱落が可能であるが、従属節内に深く埋め込まれた場合は、容認されない(例:HANDYMAN [WAS/ __] SHOT DEAD. cf. MAN [WHO RENTED OHIO APARTMENT [WHERE HANDYMAN [ WAS /*__ ] SHOT DEAD]] GETS ARRESTED)。第2に、SAYなどのbridge verbの目的節に補文化辞thatが残っている場合は、節内の連結詞の脱落は許されない(例:PROCECUTER HINTS [{*THAT/__} [VICTIM __ TO TESTIFY IN ASSAUTLT CASE]])。本研究全体を通して、以下の事実が判明した。(ア)連結詞化にはレジスター領域ごとに差異はあるが、そのような差異は無秩序ではなく、経時安定性階層(NP>AP[I-level]>AP[S-level]>VP)によって制御されている、(イ)連結詞脱落の可能性に述部名詞句の種類(固有名詞か普通名詞か)が影響を与えているという主張を支持する強い証拠は発見できなかった、(ウ)各レジスターにおいて、NPから連結詞の導入が始まり、経時安定性階層の左から右に拡張するが、その拡張がどこで止まるかはレジスター毎に異なっているとする動的説明の妥当性がより確かとなった、(エ)Richard (2010)の仕組みでは、経時安定性階層の存在と各レジスターにおける拡張の差異が説明できないことが明らかとなった。本プロジェクトを通して、レジスター毎に異なる連結詞の分布が、言語習得の過程を組み込んだ動的文法理論により説明できる可能性が示されたと言えよう。
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