本研究は、認知言語学の観点から、日英語の様々な構文を取り上げ、複数の日英語の小説とその翻訳をベースにした日英語のパラレルコーパスを用いて、言語間あるいは表現間の相違点や多様性を浮き彫りにするだけでなく、同一事態を表す日英語の構文表現の有無や差異を、言語間の認知類型・事態把握の差異と関連づけて、事態把握による類型化の研究にさらなる実証的な裏付けを与えようとするものである。分析対象とする表現のうち、プロトタイプ的な役割を果たしている一定の表現は英語の大規模コーパスや日本語のコーパス、Web上の検索エンジンなどからもその用例を抽出できるが、頻度が少なく、周辺的な表現に関しては、コンテクストを踏まえて検討する必要もあり、それは大規模コーパスからのデータでは捉えにくい部分である。そのため、日英語の小説とその翻訳をベースにした日英語のパラレルコーパスを作ることは、コンテクストも踏まえた日英語表現の比較を行うために大変有用であると考える。 最終年度にあたるR5年度は、前年度までに作成したパラレルコーパスの収集データがまだ十分であるとはいえないため、作品を増やしてデータの追加作業を行い、本研究期間中に、合計、日本語小説(長編1本、短編10本)とその英語翻訳、英語小説(長編2本)とその日本語翻訳によるパラレルコーパスを作成することができた。それらの作成したパラレルコーパスを用いて、日英語の特徴を反映した表現を対照させて、言語間あるいは表現間の相違点や多様性について、認知主体の事態把握の仕方と関連づけた認知言語学的観点から分析を進めているが、英語構文の分析に比べ、日本語の対応表現に対する独自の具体的な分析については十分とはいえず、R5年度中の研究成果の発表には至らなかった。しかし、継続して日英比較の観点から研究を推し進めており、その研究成果は論文や著書の形で発表する予定である。
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