研究課題/領域番号 |
19K00686
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大橋 浩 九州大学, 基幹教育院, 教授 (40169040)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 対人的機能 / トピックシフト / 談話標識 / 譲歩文 / 使用基盤 / 構文 / 周辺部 / 文法化 |
研究実績の概要 |
使用基盤的構文理論(usage-based construction grammar)の立場から、日英語の構文が対人的意味機能を発達させるプロセスを詳述し、その発達の動機づけを解明することを目的とした研究の2年目は、1年目に引きつづき、対人機能の発達が、ソースである構文が持つ特徴にどのように動機づけられているかを考察し、論文執筆を行った。 具体的には、英語のhaving said thatと関連構文(that being said, that said)や逆接の等位接続詞butにおいてトピックを展開したり移行するトピックシフトという対人的機能が発達した動機付けを、譲歩文が持つ構文的特徴という観点から考察し、Sweetser (1990) From Etymology to Pragmaticsによる意味の3レベル仮説と、その考えを拡張し、第4のレベルとしてテキストレベルを想定したCrevels(2000) "Concessives on different semantic levels: A typological perspective" を援用し、この拡張が、第3のレベルである発話行為譲歩文から第4のテキストレベル譲歩文への拡張と捉えられることを、論文(①大橋浩(近刊)「譲歩構文からの拡張」『構文論文集』(課題)早瀬尚子・天野みどり(編)ひつじ書房)で主張した。加えて、日本語の等位接続詞「しかし」にも対人的機能が見られ、その拡張も同様に捉えられる可能性ついてふれた。 また、本研究課題に関連し、代表者の長年の研究テーマである文法化について、「意味論・語用論とのインターフェイス」という観点から論文(②大橋浩(近刊)「文法化におけるインターフェイス」『意味論・語用論と他分野とのインターフェイス』米倉よう子(編)開拓社)を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由 本研究課題2年目の研究計画は、日英語の構文、具体的には、having said that とその関連構文、日本語の「ところで」や「だいたい」などの構文における対人機能の発達が、ソースである構文の意味的、あるいは、統語的特徴からどのように動機づけられているかを考察することにあった。 この研究計画に沿って、having said thatと関連構文(that being said, that said)において対人的機能が発達する動機付けを、譲歩文が持つ構文的特徴という観点から考察した。具体的には、Sweetser (1990) とCrevels(2000) を援用し、譲歩文の意味を、現実領域レベル、認識領域レベル、発話行為領域レベル、テキスト領域レベルに分類し、譲歩の意味は発話行為レベルであり、トピックシフトという対人的意味はテキストレベルであると捉えることにより、その拡張を自然に捉えることができることを論じた。また、日本語の逆接接続詞「しかし」にもトピックシフトとしての用法があり、その拡張も同様に捉えることができる可能性について触れた。 このように、研究計画で構想した方法に従ってhaving said that構文における意味拡張についての綿密な分析を行い、その成果として、譲歩文における対人機能の発達を、譲歩文がすべての用法で共通し持つ構文的意味と、異なる領域で表す意味との関係として捉えることができることがわかった。この考えは他の譲歩表現における対人的機能の発達についても適用できると考えられる。 以上のように、2年目の計画として予定していた内容を実行することができたため、概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題最終年度の研究計画は、ソース構文から、対人機能を持った新たな構文への発達を、構文ネットワークモデルでどのように明示的に記述するかについて検討することなので、この方向に沿って、日英語の構文における対人機能の拡張、発達、とりわけ、その動的な側面を、Traugott and Trousedale(2013)Constructionalization and Constructional Changeなどで提案されている構文ネットワークモデルの枠組みで取り扱う可能性について検討する。 具体的には、英語のhaving said thatを含む構文には、1. 話し手自身の発言を受けて、それと対立する内容を述べるという譲歩構文としての意味、2.やはり話し手自身の発言を受けて、談話のトピックを移行したり展開したりするトピックシフトという対人関係的機能、さらに、3. 話し手ではなく、対話者の発言を受けてトピックを移行、展開する用法、4.主節を伴わず独立して、トピックを終わらせるために使われる例("Having said that.")などの意味、用法があるが、これらの意味を構文という観点からどのように扱い、構文ネットワークの中にどのように位置づけるかを検討する。1, 2, 3については意味(機能)の拡張が見られる一方で統語面での形式的変化がないのに対して、4には形式的な違いが見られる。1,2,3,4の意味には連続性があると思われるが、意味拡張における連続性や動的な側面をどのように捉えるかについて考察する。 加えて、日本語における対人的機能の拡張についても研究を進める。 研究成果は研究会や学会で発表し、フィールドバックを得た上で、論文を執筆する。
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次年度使用額が生じた理由 |
主に、参加を予定していた国際構文理論学会第11回大会(ICCG11)(2020年8月20日~2020年8月22日(予定)、アントワープ大学、ベルギー)が新型コロナウィルス感染拡大のため中止となり、日本認知言語学会第21回全国大会(2020年9月5日)、日本英語学会(2020年11月7日~8日)がオンラインでの開催となったため。 差額分については、主に、参考図書の購入に使用する予定である。
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