最終年度では過去2年間の研究成果として論文(大橋浩(2021)「譲歩構文からの拡張」『構文と主観性』天野みどり・早瀬尚子(編)くろしお出版、pp. 97-118.)を発表した。また、日本語の副詞「だいたい」における対人的機能の発達についての論文を完成した(大橋浩(近刊)「説き起こしを表す副詞「だいたい」の意味拡張 について」『データから眺めた言葉とコミュニケーション』大津隆広(編)ひつじ書房). 本研究のリサーチクエスチョンは、①対人機能を発達させたソースの構文にはどのような意味や統語的な特徴があるか。②ソースの構文の意味や統語的機能は、対人機能の発達をどのような点で動機づけているのか。その動機づけは通言語的に観察されるのか、であった。 ①については本研究では譲歩・逆接の意味をもつ表現を対象としたが、これらは、先行談話中の内容をいったん受け入れた上でそれと対立する主張を行うことを合図するという意味機能を持ち、統語的には、いずれも節を導くという共通点を持つ。②は本研究の中心をなす課題であったが、①の特徴を譲歩文の構文的特徴と考えることにより対人機能の発達を自然に捉えられることを論じた。すなわち、Sweetser(1990)による、意味領域は内容、認識、発話行為の3層からなるとする仮説と、それにテキストのレベルを加えたCrevels(2000)を援用し、譲歩文とそこから派生したトピックシフトを合図する対人機能的譲歩文はいずれも第3レベルの発話行為譲歩構文であり、さらに拡張が進んだ、対話者の発話を受けたものや、主節を持たず独立して使われたものは第4のテキストレベルに属する談話標識であると考えることにより、共時的な多義関係も通時的な意味発達の動機づけも自然に捉えることができることを示した。
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