研究課題/領域番号 |
19K00690
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研究機関 | 聖学院大学 |
研究代表者 |
小林 茂之 聖学院大学, 人文学部, 教授 (00364836)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 古英語 / 古ノルド語 / V2 / 動詞語末 / 空主語 / 言語接触 / 通時統語論 / 歴史社会言語学 |
研究実績の概要 |
後期古英語期において基本語順がVOであると認められるとしても,初期古英語においては基本語順がOVであるという分析をとることは可能であることを,通時統語論,統語理論に基づいて明らかにした.また,初期古英語の『オロシウス』,後期古英語のアルフリッチ『諸聖人の生涯』のV2語順と空主語について検討し,V2 語順に質的変化が起きたこと,古英語の空主語が部分的空主語言語とは異なることを明らかにした.古英語の空主語は,非ゲルマン語的な特徴を示すので,初期古英語とラテン語との関係を再考することになる.古英語の歴史的変異としてV2語順の基底語順がOVからVOにシフトしたという仮説は北部のいわゆるデーン地域における古ノルド語との言語接触の影響という歴史社会言語学的な説明によって裏付けられることを以下の論文および研究発表を通して検討した. 論文:A Morphosyntactic Approach to Word Order and the Null Subject Construction in Old English. Bulletin 66, 21-45. Seigakuin University General Research Institute. 研究発表:①Cambridge Psalter の古英語行間訳における主語表示(第35回中世英語英文学会全国大会,2019/12/1:東京未来大学)②古英語V2語順の変異と動詞文末語順(2019日本歴史言語学会大会,2019/12/15:広島大学)③古英語のV3語順について―通時統語論における Phase と PF, LF(名古屋大学英語学研究室談話会,2015/1/25:名古屋大学英語学研究室) また,電子化コーパスを研究に利用できるようにOTA(オックスフォード大学テキストアーカイブ)からコーパスに入手,解析ツールとして Tree Bank Search を使った分析を始めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
古英語の語順変化についての先行研究を検討し,詳しく調査するためには電子化コーパスを利用する必要がある.OTA(オックスフォード大学テキストアーカイブ)から古英語の文法タグ付きコーパスを利用できるようにしたので,語順変化の調査・分析を網羅的にかつ効率的に進めていくことができるようになった.このコーパスに基づき,初期古英語に近い『オロシウス』と後期古英語のアルフリッチ『諸聖人の生涯』とを比較し,これらの間の語順の変化について調査・分析を進めている.また,V2 語順が動詞文末語順と動詞非文末語順の両方から派生されるという統語理論に基づき,古ノルド語との言語接触のためにV2語順が質的な変化しているという仮説を出しているが,この仮説について検証できるようになった.したがって,仮説とデータによる検証という手順で総合的に初期古英語の語順についての研究を具体的に進めることができた.また,ロンドンのランベス宮図書館から電子化写本データを閲覧できるように図った.
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今後の研究の推進方策 |
『オロシウス』のような比較的初期の古英語作品と『諸聖人の生涯』のような後期古英語作品の分析を電子化データに基づいて進める.さらに,その中間期の『ヴェルチェリ説教集』の動詞語順についても調査・分析を進める.『オロシウス』のようなラテン語からの翻訳された古英語作品において古英語とラテン語との対応を検討するとともに,非 V2 語順の V1 や主節の V-final (動詞文末)語順という初期古英語散文に特徴的な語順の多様性を,ラテン語 Psalm につけられた古英語グロスを調査・分析することで,形態論の観点から検証する.このような調査・分析によって古英語期の統語的変化を明らかにした上で,統語論とのインターフェイスを目的とした形態論の研究が最近行われているので,空主語についても語順の観点からも調査・分析を進めて,ラテン語との言語接触の影響について検討する.歴史的なシナリオとも関連させて,古英語の語順変化を通して初期古英語の成立の総合的な研究をめざす.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた海外出張を次年度以降に延期したために,ほぼ一回当たりの海外出張費が次年度使用額として計上された.今後の新型コロナウィルス感染防止対策のための各国の出入国制限や学会開催の状況に応じて,安全に考慮しながら海外出張を再開して次年度使用額となった予算を使用していく計画である. なお,学会やセミナーなどの開催形態が新型コロナウィルス感染防止対ためにインターネット上でのウェブ開催に変更される可能性もある.助成金の使用計画についても学会などの発表形式や資料調査の方法の変更も視野に入れて,見直して効率的な運用を検討していかなければならない懸念がある.
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