研究課題/領域番号 |
19K00690
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研究機関 | 聖学院大学 |
研究代表者 |
小林 茂之 聖学院大学, 人文学部, 教授 (00364836)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 古英語 / 空主語 / V2 / 統語変化 / TP構造 / 方言 |
研究実績の概要 |
古英語の空代名詞の分析について,近年の研究を踏まえてその意義と見通しについて考察を行い,結果を学会発表し(日本歴史言語学会2022年大会),論文を準備中である。 ゲルマン語の標準的V2 はCP主要部への移動によって説明されてる。しかし,古英語のV2の動詞の移動先には2種類があり,CPへの移動のタイプの他に,TPへの移動すると分析されるタイプがあると考えられている。(Ringe&Taylor2014) Walkdenら(Walkden&Booth20220)は,古英語のV2構文は全てCPタイプであると主張しているsしたがって,古英語のTP構造の統語構造はV2の動詞の移動先となる統語的位置があるという分析を補強する証拠があるかどうか精査される必要がある。 古英語は空代名詞を許容する言語であるので,TP構造において古英語主語がTP指定部にあるだけではなく,さらに上の階層にあり,多重的なTP構造であることを反映していると仮定するなら,古英語のTPタイプのV2構造も統語構造上可能であると主張できる。 特に初期古英語の空主語は,テキストによってその有無が分かれ,古英語の方言差には統語的な違いがあると主張する研究(Waikden2016)もあるが,現段階では萌芽的であり研究の進展の可能性がある分野である。 2022年度の研究では,古英語の空主語は,テキスト上では古英語期末までに消滅していったが,ウエストサクソン方言のテキストが大多数を占め,また古英語の文語体の標準語の形成が行われたとみなせることを考察した。これはTP構造の変化によって,古英語のV2の衰退を説明できるという方向が正しいことを示す証拠を示すことができたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍の影響が残存し,資料の収集や研究活動が部分的に妨げられるような事態が発生していたために,研究を十分に遂行することができなかった。また,大学での対面授業の再開による環境の変化も研究の遂行に少なからず影響した。
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今後の研究の推進方策 |
資料の収集については代替処置をとることができたため,研究を進展させることができる準備ができた。また,大学の環境も平常に戻りつつあり,コロナ禍の研究活動への影響も減っていくと期待できる。課題の研究期間が延長された中で,統語理論や言語変化に関する研究を当初の計画よりより幅広く収集し,検討することができたので,古英語V2の統語変化について歴史語用論的な問題提起から,統語理論的な説明を与えることをめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
コナカ禍の研究への影響があり,研究資料の収集に遅れが生じたため,研究を十分に進めることができなかった。そうした研究の遅れを修正し,論文の英文校正などの費用に使用する予定である。
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