研究実績の概要 |
本研究の目的であるAelfricのGrammar11世紀の写本毎の言語データベースを作成するため、令和2年度はインターネット上で閲覧できるデジタル画像と研究代表者が所有するマイクロフィッシュ画像から写本テキストを転写した。テキスト転写を完了した写本は以下の通りである。(1) London, British Library, Cotton Julius A.ii (2) British Library, Harley 5951 fol.8-9 (3) British Library, Royal 12 G.xii (4) Oxford, All Souls College 38 (5) Paris, Bbbliotheque Nationale, anglais 67 (6) Bloomington, Indiana, Lilly Library, Additional 1000。上記の写本のうち、Cotton Julius A.ii写本の言語を調査し、その研究結果を「アルフリッチの『文法』Julius A.ii写本の言語」のタイトルで本務校の紀要に投稿し、論文は令和3年3月に公刊された。また、令和元年度に調査したBritish Library, Harley 107写本の言語についての論文を寄稿した菊池清明、岡本広毅(編)『中世英語英文学研究の多様性とその展望 -吉野利弘先生、山内一芳先生喜寿記念論文集』が令和2年12月に出版された。Gneuss (1997:47-8)によれば、Harley 107写本とJulius A.ii写本はともに「南東部方言の綴りが多かれ少なかれ頻繁に現れる」『文法』の写本である。2つの写本を調査した結果、確かに南東部方言の要素として見なされる言語要素が含まれているが、現れる要素は2つの写本間で異なることが分かった。例えば、Harley107写本に見られる綴りeoの代わりのioの綴りはJulius A.ii写本には観察されず、他方、Julius A.ii写本にあるウエストサクソン方言のeに対するaの綴りはHarley107写本では見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度は6つの写本からテキストを転写したが、そのうちの5つは断片の写本である。テキストの分量は少なく、顕著な方言要素は観察されなかった。また、昨年度の推進方策で、British Library, Cotton Julius A.ii写本と共にDurham, Cathedral Library B.III.32の言語調査を行うと述べたが、Julius A.ii写本のテキスト転写と調査に集中したため、昨年度、調査ができない結果となった。Durham写本については今年度、調査をして論文にまとめる予定である。新型コロナウィルスの蔓延状況に改善が見られないため、令和2年度も現地調査を実施できなかったこと、そして、写本からのテキスト転写と調査が比較的低調であったという点から「やや遅れている」という評価をした。
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