研究課題/領域番号 |
19K00696
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
内田 充美 関西学院大学, 社会学部, 教授 (70347475)
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研究分担者 |
家入 葉子 京都大学, 文学研究科, 教授 (20264830)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 歴史社会言語学 / 言語接触 / 翻訳 / 言語変化 / 多言語 / 綴り字 |
研究実績の概要 |
本研究は (i) 言語接触の直接的影響の有無が予測できる文献の詳細な分析 (ii) 言語接触による影響が認められると予測される資料(原典と翻訳)を幅広い情報源に基づいて掘り起こす (iii) 翻訳元テキスト(原典)の同定についての先行研究の探索,の組み合わせによって進めている.理想的には (ii) (iii) を終えた資料について分析 (i) を行うことが望ましいが,最初期印刷本の研究にあたっては (ii) (iii) の作業に膨大な労力が必要となる.2021年度には,前年度に引き続き (ii) (iii) を進めながらも (i)のうち,特に,語源綴りという現象に焦点を絞った分析に注力した.印刷術を英国に導入したことで知られるWilliam Caxtonが生きた時代は,英語の綴り字にラテン語綴りの影響が定着しはじめていたとされる時期にあたる.Caxtonがフランス語原典から翻訳したテキストとオランダ語原典から翻訳したテキストを比較し,ラテン語綴りの影響がそれぞれどのように現れているかを詳細に検討することによって,多言語使用者で翻訳を生業とする者でもあったCaxtonの綴りの「ゆれ」を分析した.限られた語彙要素を対象とした分析ではあるが,フランス語全般における語源綴りの隆盛と後退を汎用コーパスを用いた調査を通して考慮することによって,英語とフランス語2つの言語における語源綴りの大きな流れのなかに,Caxtonという個人の言語使用の「ゆれ」を位置づけたことに意義がある.この研究は査読を経て学術雑誌 English Studiesに採録された.また,これまでに行ってきた言語類型論の仮説を援用した論考が論文集の1章としてひつじ書房より刊行された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度には研究代表者の本務校における学内業務が尋常でないレベルの荷重で多忙を極めたため,当初予定していた進度よりやや遅れたかたちでの遂行を余儀なくされた.2020年度と2021年度には英国・欧州におけるワークショップ等への参加,英国・フランス・ベルギーの図書館等での調査を予定していたが疫病の蔓延により実現が叶わなかった.さらにオンライン授業やその取りまとめ業務,さらに2021年度にはハイブリッド(ハイフレックス)授業への対応と取りまとめに時間と労力をとられたこともあり,依然,遅れを取り戻すには至っていない.
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今後の研究の推進方策 |
多言語社会に生きる多言語使用者の言語行動,とりわけ翻訳という営みが言語変化にいかに貢献したのかを,個人の言語活動に注目しながら社会言語学と歴史社会言語学の枠組みで捉える研究を継続していく. 2022年度中に実現するかどうかは依然不透明であるが,英語学や英語史だけでなくアングロノルマン,写本学,書物学,メディア研究などの研究者との直接的な交流を図る.歴史社会言語学という比較的新しい枠組みに立ちつつも,これらそれぞれの分野における過去の膨大な研究成果を適切に評価し取り入れていくことを本研究の重要課題のひとつととらえているからである. 本研究課題では,これまで印刷揺籃期の翻訳英語にみる語彙,統語,構文,綴りについて,翻訳元言語の特徴との関連を考慮しながら調査・分析を行うことで成果を納めてきた.2022年度は引き続き,語源綴りについての検討を進めるとともに,語法の側面にも焦点をあてる予定である.また,翻訳元原典とされるテキストの複数の版,および,Caxton版に続いて印行された別の英語テキストとの間に見られる異同にも着目し,多言語ビジネスの現場であった当時の印刷業を取りまく状況と社会的背景にも目配りをしつつ,印刷揺籠期における翻訳英語の分析を進めていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020, 2021年度に予定していた海外出張および海外での資料の収集が実現しなかったことによる.海外出張が可能になった段階,また,海外の図書館等の諸業務が復旧した段階で,適切に執行していく予定である.今後,現状が長く続くようであれば,当初の目的を別の方策を採ることによって達成できるよう,オンラインを活用した活動を中心とするなど他の使途に振り替えながら,調整を行っていく.
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