研究課題/領域番号 |
19K00697
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研究機関 | 神戸女子大学 |
研究代表者 |
南 佑亮 神戸女子大学, 文学部, 准教授 (40552211)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | there構文 / have構文 / 属性叙述 / 構文文法理論 / 構文交替 |
研究実績の概要 |
本研究が着目する属性名詞によるthere/have交替現象にはデータや研究の蓄積がないため、初年度はまず(1)基礎的なデータ収集、および(2)2年目以降の本格的な調査・分析に向けた問題の明確化に努めた。 (1)については、電子コーパスであるCorpus of Contemporary American English(以下COCA)と英米の現代小説やエッセイから事例を収集し、名詞ごとにエクセルによるデータベース化をおこなった。この調査に伴い、当該交替現象で観察される名詞の数は10余りという当初の予想よりもかなり多く、年度末時点で30を越える名詞について確認できている。 (2)については、当該構文交替現象の本格的な分析を進めるための問題点の特定を試みた。先行研究では「存在」を表すthere構文の変異体としてhave構文が位置付けられており、両者の使い分けはについては(i)談話的要因(情報構造)と(ii)意味概念的要因(描かれている存在物の有生性や、存在物と場所の間の関係がどのようなものか)が指摘されている。これを踏まえ、特に(ii)については、先行研究で扱われた事例が「存在物―存在場所」の関係を表すのに対し、本研究の対象とする現象は「属性―属性の所有者」関係を表すことから、従来の一般化や分析をそのまま適用することが困難であることを明らかにした。 以上の研究成果の一部は、英文論文 "Abstract Nouns in the There/Have Alternations" (『神戸女子大学文学部紀要』第53巻, pp. 11-23, 2020年3月.)および和文論文「属性名詞を目的語とする前置詞句付きhave構文の諸相」(『英語学の深まり・英語学からの広がり』pp. 84-95, 英宝社,2020年3月)にまとめられている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通りのペースでデータ収集を進めることができているといえる。データ収集の過程で、本研究が対象とするthere/have交替が当初想定していたよりも多くの属性名詞で観察される生産性の高い現象であることが判明したため、2年目も引き続きデータベースの整備は継続する必要であることが判明したことは収穫である。 加えて、データ収集・調査の過程で、といった形容詞派生名詞(toughness, sweetnessなど)がthere/have交替現象で観察されることが分かったため、形容詞(tough, sweet)を述語とするより一般的な属性叙述文との比較が容易になり、叙述類型論への貢献を探るという当初の計画について一定の見通しが立てられていることは特筆に値する。 研究成果の発表については、初年度中に国内外の学会で当該現象の重要性を問うための研究発表をおこなうという予定は実現しなかったが、論文を2本(和文、英文を1本ずつ)執筆することができた。加えて、第11回国際構文文法学会(11th International Conference on Construction Grammar)(2020年8月、ベルギー)での研究発表に応募し、既に内定を得ている(※ただし、同学会はCOVID-19の影響で開催が1年延期となっている)。
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今後の研究の推進方策 |
2年目以降も引き続きデータベースの作成を進めるとともに、信頼できる所属機関内外の母語話者の協力も得ながら、特に以下の3つの問いを中心に仮説とその検証を進め、当該現象の実態をさらに解明していく。 ①ある属性名詞のthere構文とhave構文への分布は談話的要因・概念的要因のどちらに動機づけられているのか ②(①と関連して)概念的な前置詞選択や構文選択に関して同じような傾向を見せる名詞は意味クラスを成すか。 ③have構文における前置詞句はどのような機能を果たすのか。 研究の進展にとって有益なフィードバックを国外の研究者から得るため、2020年8月開催予定であった国際構文文法学会で研究発表を行う計画だったが、COVID-19感染拡大の影響で同学会の開催が延期されたため、次善策として別学会での発表を視野に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた国際学会での研究発表をスケジュールの都合により断念したことで旅費を使う必要が生じなかったことが大きな要因である。また、国内学会も居住地区から近い場所での開催が多かったため、特に必要はなかったこともある。書籍については、とりわけ年度末はCOVID-19の影響で洋書の納品に著しい遅延が見込まれたため、発注を延期したものが多くある。 次年度は、上記の大量の書籍の購入に加え、データの分析をより本格的に進めるため、インタビュー調査・データ整理のための謝金、およびICレコーダーを購入する必要がある。また、国内学会も遠方開催のものが複数あり、遠方の大学に勤務する英語母語話者教員へのインタビュー調査も計画しているため、そのための旅費も必要となる見通しである。国際学会については今後の各国におけるCOVID-19の状況によって大きく変わるが、当面の計画としては年度内に少なくとも1回は研究発表のために欧米圏の国に渡航することを視野に入れている。
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