研究課題/領域番号 |
19K00701
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
小熊 利江 お茶の水女子大学, 国際教育センター, 研究協力員 (00448838)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 第二言語習得 / 日本語教育 / ロシア語母語話者 / 発話音声 / 発音指導 / 縦断研究 / 習得過程 / 自然発話スタイル |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ロシア語母語話者による日本語の音声習得過程を明らかにすることである。継続的に同一被験者に対するデータ収集と分析を行うことにより、横断研究から明らかになった点について、学習者が実際にたどる習得過程と対照しながら検討を行うことが可能になる。そのため毎年モスクワに渡航し、日本語学習者の発話データを収集して分析を行う縦断研究を続けている。 前年度には新型コロナウイルス感染状況の悪化のためロシア入国のためのビザが発給されず渡航不可能であったが、本年度には発話音声データの収集のためにモスクワに出張することができた。しかしながら、新型コロナウイルスの感染が急拡大したため、出張翌日からモスクワ市がロックダウン(都市封鎖)に入り、協力を依頼していた大学が休校となり、被験者個人に会うことも難しくなった。そのため、本年度に収集した発話音声データは予定より少ない結果となった。 本年度は、これまで収集した発話音声データを分析し、ロシア語母語話者の日本語音声習得の特徴に関する研究成果をまとめた。研究実績としては、2件の国際学会での発表が挙げられる。1件は、横断研究の結果をもとに縦断研究を用いて検証を試みたものである。ロシア語母語話者による日本語の音声習得過程において学習者の音声が体系的に変異する様子を示し、発音の習得過程が音韻の漸次拡散モデルと音韻の範疇化プロセスの仮説を支持する可能性を示した。もう1件は、分析の観点として日本語の母音の産出について検討した。量的分析を行った結果、単音レベルの発音は日本語母語話者にとって不自然に聞こえるという指摘が多いことが明らかになった。なかでも、日本語の母音の発音が曖昧化する現象が多く、母音の発音の習得過程は音韻の範疇化プロセスの仮説と関連する可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、ロシア語母語話者による日本語音声の習得過程および習得上の困難点について明らかにすることである。第二言語習得研究において、学習者が実際にどのような習得過程をたどるのかを明らかにするためには、日本語能力レベル別に量的に分析する横断研究による予測だけでなく、個々の学習者を継続的に観察する縦断研究によって検証することが必要である。 縦断研究のため、毎年モスクワに出張してロシア語母語話者の発話音声のデータ収集を行う予定であったが、新型コロナウイスのパンデミックの状況下で、前年度はロシアの入国ビザの発給が停止され渡航できず、本年度は出張中にモスクワ市がロックダウンとなり被験者に会うことが難しかった。令和2年度に続き、令和3年度においても学習者の音声データの収集をほとんど行えず、研究の推進が非常に困難な状況が続いている。そのため研究が予定通りに進まず、現在は主にこれまでに収集したデータの分析に取り組んでいる。 また、ロシアに研究成果を還元するため、ロシア国内の日本語教育研究会にて研究発表を行い、現地の研究者や教師と意見交換を行う計画であったが、令和3年も新型コロナウイルスの感染状況悪化のため会議に参加することができなかった。そのため、ヨーロッパにおいて開催された別の国際会議にて研究発表を行ったが、次年度はロシア国内の学会等にて発表を行いたいと考えている。しかし今年、ロシアがウクライナと戦争を始めたため、今後のロシア渡航の可否が予測できない状況となっている。 ロシアにおける縦断的な調査は困難であるが、ロシア語母語話者を対象とした同一学習者の長期的な発話音声のデータ自体が非常に希少なものであり、学術的な価値が高い。次年度は、令和3年度に調査を行えなかった被験者についても継続してデータ収集を行う予定であり、またこれまで収集したデータを公開できるようにしたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度には引き続き、モスクワに出張してロシア語母語話者に対する日本語の発話音声データを収集する計画である。ただ、現在もモスクワは新型コロナウイルスの感染地域であり、またロシアとウクライナの戦争の終結時期も不明である。ロシア入国にはビザの取得が必要なため、現状ではロシア語母語話者の発話音声データの収集スケジュールを確定することができない。今後も新型コロナウイルスの感染状況等を考慮して、モスクワにおける調査の実現に適切な時期を見極めながら準備を進める。 また、それと並行して既に収集されている音声データの文字化や分析も行う。音声データの分析に関する具体的な作業として、まず音響分析ソフトを用いて音声データを編集し、聴覚評価用の音声ファイルを作成する。発話音声の自然さの評価は母語話者の印象評価が適切であるため、本データの聴覚評価は日本語母語話者にどのように聴取されるかを基本とする。学習者の音声を具体的に記述するため音声学のトレーニングを受けた日本語母語話者に、編集された音声データについて自然さ・不自然さの評定を依頼する。その結果を集計して、ロシア語母語話者による日本語音声の習得過程に関する分析を行う。 研究の成果については、明らかになった結果から随時、学会等にて報告していくことにする。発表する学会としては、可能であればロシアの日本語教育界に研究成果を還元するためにモスクワの国際会議などを想定している。また、世界の第二言語の音声習得研究に貢献するため、様々な母語を持つ日本語学習者の研究が進むヨーロッパや北米の国際学会等においても研究発表を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスによるパンデミックの状況下で、令和3年度に計画していた学会発表やモスクワでのデータ収集が計画通りにできず、見積もっていた旅費や謝金が使用されなかった。また、学会がオンライン開催になったことにより旅費が不要となった。次年度は、ロシアへデータ収集のための出張を行う計画であり、海外の学会でも研究発表を行う予定である。また、音声データの公開や分析のための謝金などとしても次年度使用額を使用する予定である。
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