研究課題/領域番号 |
19K00716
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
杉原 由美 慶應義塾大学, 総合政策学部(藤沢), 准教授 (00397069)
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研究分担者 |
OHRI RICHA 千葉大学, 国際未来教育基幹, 特別語学講師 (80770031)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 異文化間教育 / 言語文化教育 / クリティカルリテラシー / 文化的差異の知の構築 / アクティブ・ナレッジ / 自己再帰性(reflexivity) |
研究実績の概要 |
本研究は、日本における国際共修と言語教育の授業において、学びの過程で文化的差異が生産・強化される問題に着目し、文化的差異に関するクリティカルリテラシー(批判的に考察できる能力)を促す新しい概念である「アクティブ・ナレッジ」の理論的・実践的枠組みを確立し、教育現場に示すことを目指すものである。 2019年度に行った「国際共修授業を対象とし文化的差異のアクティブ・ナレッジ概念の明文化とモデル図式化を行う」研究によって、再検討課題を得た。2020年度は、その再検討課題を追究するとともに、コロナ禍において新たな教育実践形態の追究を行った。 具体的には以下の通り。 1)世界的な社会言語学の大会Sociolinguistics Symposium 23(2021年6月7日から10日)の発表論文に採択され、国際共修授業の受講生を対象として文化的差異の知の構築プロセスを追究する研究を行った。その研究において、自己再帰性(Self-reflexivity)が鍵となってActive critical engagementが起こる現象に注目し、一連の文化的差異の知の構築プロセスをモデル図化した。 つまり研究の出発点である「アクティブ・ナレッジ」概念の詳細なあり様の一端を明らかにすることができた。 2)コロナ禍の中、従来の対面授業とは異なるオンラインでの文化的差異に関するクリティカルリテラシーを促す教育実践を、国際共修授業・英語科目において追究した。また、それら授業でのグループワークの成果物としてポスターやビデオ録画によるスキットなどを、広く発信していくための基盤となるWebサイトを立ち上げた。 その1つであるNew Face of Japanプロジェクト(日本在住の様々な背景を持つ人たちの文化的差異に関わる生の声を集めるプロジェクト)を国際共修授業において発展させ、英語教育領域での応用を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)2020年度の新たな計画として加えた「コロナ禍での差別・偏見経験について、文化的差異に関するクリティカルリテラシーを促す教育実践と研究を行う」計画は、対面からオンラインへと授業形態が移行する中で教育実践の模索にエネルギーを費やした。ウェブサイトを立ち上げたりオンライン授業においてどのように実践を進めていくのかの模索に苦戦し、研究にとりかかることは2021年度の課題となった。 2)当初より2020年度に計画していた、文化的差異に関するクリティカルリテラシーを促す教育実践の「言語科目への応用」は、英語科目において遂行した。具体的には、英語のディスカッションの授業において、New Face of Japanプロジェクトのウェブサイトを参考にしながらポスター作成を行った。履修者は多様でインクルーシブな日本社会の実現をテーマに、「差異」や「日本人とは」など8つのテーマに分けてポスターをつくった。多様の人が共存し合う共同空間であるはずの社会活動において、「日本人」の「定義」に合わない人を排除するような発言(例えば社会に飛び交う「日本人じゃないよね」「ガイジンは国に帰れ」のような発言)に注目した。その狙いは、オンライン授業という限られた環境において、文化的差異についてクリティカルな観点から考えられるようになるところにあった。その実践報告を投稿予定である。 3)Sociolinguistics Symposium 23大会の発表論文として文化的差異の知の構築プロセスの理論的枠組みを再検討する研究を遂行した。「海外の応用言語学関連学会で発表を通じた対話を行い、日本の文脈を超えて客体化が可能な理論枠組みを形成する」計画は、コロナ禍のために大会開催が1年延期されたために進度は遅れているものの、計画は進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
1)コロナ禍において文化的差異が生産・強化される現象がセンセーショナルな形で世界各地で起きている。この一連の現象を、文化的差異に関するクリティカルリテラシーを促す教育実践を行った上で、本研究で見出しつつある文化的差異の知の構築プロセスの理論的枠組みを用いて分析・考察する研究を行う。2021年度には、国際共修・言語科目(英語)に続き、言語教育科目(日本語教育講義)にも教育実践を拡張する。 2)その実践と研究をWebサイトを活用しながら行うために、Webサイトの基盤の充実を図りたい。New Face of Japanプロジェクトはその一つで、多文化共生の観点から日本社会が抱える課題に注目するものである。New Face of Japanでは、日本社会の構成員の一人としてその人が経験した違和感・差別・偏見などはどのようなものなのかを、当事者のインタビューやそれに基づいたポスターを通じて社会に向けて発信していき、その実践を分析・考察する。 3)Sociolinguistics Symposium 23発表の研究を洗練させ、学術雑誌Intercultural Educationに投稿する計画である。さらに、2021年度末の3月に開催される世界的な応用言語学大会(AAAL)に文化的差異の知の構築プロセスの理論的枠組みの応用可能性を発表する。そして、日本語でも論文発表を、異文化間教育学会・言語文化教育学会・日本語教育学会などにて行う。最終的には、文化的差異の知の構築プロセスを各教育現場(言語科目・国際共修科目・言語教育関連科目)に還元できる概念やモデルとして検証の上で、クリティカルリテラシーの 教育実践とともに提示する。その成果を本研究のウェブサイトで日英両言語で国内外に発信する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度には、American Association for Applied Linguistics(AAAL)の大会とSociolinguistics Symposium 23の参加のための旅費と滞在費を計上していた。これらは、コロナ禍で学会がオンラインで行われることになったために使用しなかった。これらの海外の学会参加のための旅費と滞在費は、2021年度に使用する可能性を残しておくとともに、オンラインでの実践と対話を充実させるための費用(Webサイトの整備のための謝金などや機器、書籍の購入など)に使用する計画である。
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