本研究は日本語学習者が自身の動機づけをどのようにコントロールしているのかを明らかにすることを目的とした。分析には学習者の「学習の記録」を用いた振り返り活動のコメント、自律的動機づけ質問紙調査、学習者および担当教師へのインタビューを用いた。 学習の記録のコメントを分析した結果、動機づけの高い学習者は、自身の有能感を確認するとともに、弱点を分析し、具体的な課題を自身に与えていた。コメントにはまず「何ができるようになったか」という有能感に関する振り返りが出現しやすく、その後、自身の弱点に関する振り返りが現れる。やがて、「弱点を克服するため」の課題設定を自律的に行うようになる。課題は「何の能力を上げるか」から「そのためにどのような練習を行うか」へと次第に具体化していく。また、教師との交流(質問や意見交換)を活発に行うことによって、他者を自身の動機づけに有効活用していることがわかった。 質問紙調査からは、自律性の最も高い群は、非自律的動機づけ(他律的動機づけ)の制御に成功していることがわかった。一方で、自律性の低い群は自律的動機づけ項目得点が高いものの、非自律的動機づけ項目得点も高いケースが目立った。したがって、自律度の高さは自律的動機づけの向上・維持もさることながら、非自律的動機づけの抑制に負うことが大きいと言える。その一因として、「他律内発的動機づけ」の関与に注目した。「他律内発的動機づけ」とは、例えば、教師が学習者の内発的動機づけを高めるための工夫・働きかけを行うことによって、学習者の内発的動機づけが喚起されることである。比較的自律度の高い群は教師の働きかけによって、学習自体に興味を持ち、内発的動機づけを高めることができていたが、自律度の低い群はその場の学習は楽しみつつも、一時的な興味で終わってしまうことが非自律的動機づけを抑制できない一因である可能性が示唆された。
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