研究課題/領域番号 |
19K00725
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研究機関 | 園田学園女子大学短期大学部 |
研究代表者 |
吉永 尚 園田学園女子大学短期大学部, その他部局等, 教授 (70330438)
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研究分担者 |
杉村 泰 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (60324373)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 体感を表すオノマトペ / 促音終止型 / 撥音終止型 / 畳語型 / 体感を体感を表すオノマトペの教育 / 体感を表すオノマトペの日中対照 / 介護の現場で用いられるオノマトペ / 介護用語のやさしい日本語 |
研究実績の概要 |
従来のオノマトペ研究は擬音語を中心とした音韻的な内容が多く、感情・感覚など心身状態を表す擬態語に特化した研究は少ない。本研究ではこれらの語彙を語形により分類し、それぞれの意味特徴を観察し、語形と意味の相関について考察した。オノマトペの語形と意味の相関についての先行研究は、多くが研究者の直感的判断に基づいたものである。本研究では語末が撥音、促音のもの及び畳語タイプの感情・感覚を表すオノマトペについて日本語母語話者に言語調査を実施し、結果をもとに語形と意味の関係性を考察した。これにより、語形による音声的性質が時間的性質などの語彙特性に関与していることが明らかとなった。 また、心身の状態表現の理解度を中級以上(中級前半・後半、上級)の日本語学習者で調査した結果、一般的な事態の表現に比較し全般的に理解度が低い傾向があることが確認された。 学習レベルが中級前半、中級後半、上級と上がるにしたがって全体的な正答率は上昇したが、上級でも「ずきずき」「むかむか」「きりきり」などの語彙は正答率が低かった。特に、痛みの部位とオノマトペの結びつきを選択する問題での正答率が低く、身体部位との関係性を理解していないことが原因の一つと考えられる。オノマトペを部位と結び付けることはイメージ理解の手がかりとして重要であり、品詞分類の知識と連動して定着すると思われる。擬態語オノマトペは習得面での難易度が高い分野とされてきたが、喫緊の課題となっている医療福祉人材の養成において使用頻度の高いオノマトペ教育の必要性が注目されており、初級レベルからの導入も検討されている。これらの語彙の語形と意味の関係性についての語彙特性を踏まえ、効率的な指導法について考察した結果、初期段階での指導内容に形態的な意味特徴を導入することにより、オノマトペ理解・定着が促進されることが調査により確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心身のオノマトペの形態と意味の相関について、日本語母語話者へのアンケートをオンラインで一定数実施することができ、貴重な言語資料を収集できた。オノマトペの意味規定は主観に左右される傾向があるが、心身のオノマトペ(体感を表すオノマトペ)についてのネイティブ語感アンケートにより、形態差の点でかなり共通認識があることを確認できた。また、この知見を実験的に日本語指導に応用した内容でアンケート調査を実施した結果、一定以上の効果がみられることが確認された。この研究成果をお茶の水女子大学での第2言語習得学会(オンライン開催)で発表し多くの有益な助言を得ることができた。これらの成果を早稲田大学文学会誌に掲載し、大学紀要でも公開した。また、オノマトペをはじめとする介護現場での用語をわかりやすい日本語に変換し練習問題により自学自習できる介護従事者候補向け日本語教科書を共著出版した。さらに一昨年出版した医療福祉分野用語集(日・中・英語版)を加筆修正し、ベトナム語、インドネシア語、ネパール語、タイ語を加えた医療擬態語対訳集を現在編集中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策の概要は、前年度の研究成果を踏まえて、さらに体感を表すオノマトペの形態と意味の相関性について実証し、実際の教育現場での効率的な指導法を模索することである。心身の状態のオノマトペについて、看護辞典や介護ナビなどの資料(CD-ROMを含む)及び医療福祉関連機関(医療福祉機関・福祉系大学・福祉施設など)を対象として使用実態調査を行い、使用頻度の高いものを抽出する。これらのオノマトペについて、日台の日本語教育機関(大学留学生別科、日本語学校、大学日本語班など)、医療福祉教育機関(大学医学系・看護系、医療福祉系専門学校など)の日本語学習者に対して文法性判断アンケート、穴埋めテストなどで習得状況調査をし、また、日本語学習者へのインタビュー会話を録音し「作文」授業による作文データを継続的に収集する。これらをもとに各レベルでの学習者中間言語コーパスを構築し、公開する。使用頻度の高いオノマトペで、医療福祉教育機関などで特に誤用が多いものを選定し、文法・語彙・言語習慣など様々な側面から誤用原因を分析し、教育面での対応策を考え、効果的な教授法・教材を開発し、最後に報告書を作成する。言語調査は主に国内外の日本語教育機関でオンライン、紙媒体で行う予定であるが、海外での現地調査が可能な状況になれば、当初の予定であるベトナム(ハノイ)、台湾(台北)、インドネシア(バンドン)などでの現地調査も実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の参加学会の多くはオンラインで開催されたため、参加費、交通運賃費、宿泊費などの旅費が執行できず、海外調査も中止したため、旅費の多くが未使用となりました。また、開催学会の多くはオンライン開催となったため、講師料、消耗品、会議費などの予算執行の一部も未使用となりました。
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