研究課題/領域番号 |
19K00731
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
向井 留実子 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 準研究員 (90309716)
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研究分担者 |
近藤 裕子 山梨学院大学, 学習・教育開発センター, 准教授 (70734507)
中村 かおり 拓殖大学, 外国語学部, 准教授 (70774090)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ライティング教育 / 引用指導 / 論文のタイプ / 学術的文章の種類 / 引用表現 / 非典型的引用 / 直接引用と間接引用の複合型 |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度コロナ禍のために中止となった海外の学会での発表が実現でき、国内では、昨年度行った調査結果から得られた知見を発表するなど、これまでの成果を形にすることが中心となった。 海外での発表では、異なる背景の学習者に対する読解過程の調査結果に基づき、文化的背景と、日本語学習で学んだ読解方略の影響によって、文章理解に課題が生じていることについて述べた。国内の発表では、昨年度行った複数分野の学術論文における引用の使用実態調査から明らかになった2点と、昨年度発表した日本人学生・留学生の引用箇所理解の調査結果に対する追加分析1点、さらに、昨年度得られた知見を踏まえ、追加で行った調査に基づく引用指導の課題解明1点である。具体的な内容を以下に示す。 1) 社会学系の学術論文では、ライティングの教本等で取り上げられている典型的な引用形式が使用されることは少なく、非典型的引用が多く用いられていることを述べた、2)「~ように」が引用表現の役割をする事例を分析したところ、「~ように」節に、引用内容を含む場合と含まない場合があり、それぞれの文章中の機能も、使用の難易度も異なっていることが明らかになった。それを踏まえて、2つの場合の段階的な指導を提案した、3) 日本人学生・留学生ともに非典型的引用が引用と認識されにくいという昨年度の調査結果に対して、その要因には、文章の種類や、文章における引用の機能が関わっている可能性があることを述べた。4) 初年次から専門教育への接続の課題を、ライティング教育の引用指導の側面から明らかにすべく、初年次向け教本と、専門分野に特化した教本の引用解説内容を調査した。その結果、前者には、教本間で間接引用の捉え方の違いがあること、後者には、直接引用を重視する初年次とは異なる引用形態が重視される分野があることが、接続の円滑化を阻害している可能性があることを述べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、「間接引用」の総体を明らかにすることを目指し、複数分野の学術論文における引用の使用実態の調査と、アカデミック・ライティングを学ぶ学習者の引用理解の実態を明らかにする調査を進めてきた。論文の実態調査については、研究期間の前半で「間接引用」に注目した分析を行なってきたが、その過程で、さまざまな引用形態・表現に加え、解釈が複合的に用いられていることが明らかになり、「間接引用」のみに限定しない調査や分析が必要であるという認識に至った。また、それぞれの形態・表現が、そこで用いられるのは、文脈や文章の種類が関係しているという示唆を得ることができた。そこで、研究期間の後半では、引用形態・表現全般を対象とし、引用表現「~によると」「~によれば」「~ように」を取り上げて分析を進めた。 また、学習者の引用理解については、初年次の日本人学生とアカデミック・ライティングの経験のある日本語力の高い留学生に対する調査結果から、学術的文章への接触度に関わらず、指導された内容の影響が大きいことが明らかになり、学習者の教育段階に応じた引用指導のあり方を検討する段階に進んでいる。 このように、コロナ禍等の事情で初年度の進捗が遅れていたが、昨年度と本年度で徐々にその遅れを取り戻しており、本年度の成果のいくつかは、来年度論文として掲載される予定であることから、おおむね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
学術論文における使用実態調査については、間接引用だけにとどまらず、引用形態・表現全般を対象として進め、これまでの分析を引き継いで、それぞれの形態・表現の文章中での役割と、それぞれの形態・表現間の関係を明らかにすることを目指す。本年度の調査結果の分析からは、分野特有の引用の使用傾向は明らかにならなかったが、分野や学術論文のタイプが、文章の種類と関係していることが示唆された。そこで、来年度はその点についても明らかにする調査を行う。 また、これまでの調査から、引用形態・表現は複合的に用いられていること、引用と書き手の解釈との境界が曖昧な場合があることが明らかになった。このことを受け、引用元の内容を言い換えるという、従来の間接引用の捉え方を見直し、他の引用形態・表現および解釈との関係の中で間接引用の新たな位置付けを示すことを目指す。これにより、当初目的としていた、「間接引用」の総体を整理することができると考える。 最後に、以上のことから得られた知見を踏まえて、学習者への引用理解の調査を行ない、表現使用の難易を見極めた上で、習熟度に合わせた段階的な引用指導への提案も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、実施2年目も3年目もコロナ禍で移動に制限が生じ、各種発表もオンラインで行われるようになった。そのため、国内発表のみならず、海外の国際学会での発表も、必要な出張費の支出がなくなり、その費用が残ることになった。しかし、2022年度は対面で実施する学会も増えることが見込まれることから、その旅費と発表費用を使用する予定である。また、論文調査で、PDFからwordへの変換が困難な論文が多く、一部の論文変換が残っているため、その作業も必要で、謝金費用も支出する予定である。
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