研究課題/領域番号 |
19K00753
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
花井 理香 大阪大学, 国際教育交流センター, 招へい研究員 (60745967)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 言語継承 / 国際結婚 / 多文化家族 / 多文化共生 / 日本語の継承 / 日本人母 |
研究実績の概要 |
本研究では、少数派言語を母語に持つ親の子どもへの言語継承という視点から、韓国人男性との婚姻により、韓国に居住している在韓日本人母を対象に、家庭内での言語選択・日本語の継承に影響を与える要因を、継時的調査による家族変化、政策などの社会的支援や社会変化から探ることが目的である。また、言語選択によって、家族内の価値観や子育て(教育)がどのように変化してくるのかということを、在韓日本人母の面接調査と、その子どもたちの面接調査から明らかにしていく。 2020年度は、新型コロナウィルスの影響により海外渡航がかなわず、韓国での面接・フィールド調査が実施できなかった。子どもたちへの面接調査の承諾も受けていたが、将来を不安視している被験者もおり、2020年度の実施は見送った。また、2007年から経時的に調査している日本人母コミュニティの活動調査は、2020年3月にZoomでグループインタビューを実施した。調査結果からは、子どもたちの活動はほぼなく母親の集まりが中心となっており、集まりもZoomで実施されていた。以前は、教育問題などが共有されていたが、子どもが成長するにつれ、各家庭でそれぞれの将来に向け、学習が展開されていた。子どもの成長とともに継承語教育は減少するという先行研究があるが、日本語教育機関の少なさという要因よりも、それぞれの将来にむけての進路が多様化し、継承語教育に力を入れない家庭が増加するからだと考えられた。しかし、コミュニティは、母親の韓国生活での重要な居場所として維持されており、コミュニティの重要性が明らかとなった。 現在の韓国の研究動向としては、調査協力者との今年度の論文収集結果から、多文化家庭(国際結婚)の研究は減少し、韓国全体の福祉問題などの研究が増加していると考えられた。研究対象が外国人全体になってきているとも考えられ、今後も注視し、継続して研究してく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウィルスの影響により韓国への渡航が制限され2020年2月以降の研究が停滞している。調査開始当初、2006年から面接調査に参加した被験者の何名かの母親に2019年7~12月に連絡をとり、子どもへの面接調査の承諾を得た。そのため、2020年2~3月にかけて、面接調査を実施する予定であったが、東京への移動の制限や韓国に渡航できず、調査を開始できなかったため、2020年度以降に実施する予定であったが、被験者たちが精神的に将来の不安を抱えていることもあり、2021年度以降に実施することとした。 今後もこの状況が続くようであれば、韓国での面接調査は困難であると考えられるが、Zoomなどで調査ができる環境にいる被験者がいれば実施したいと考えている。しかし、被験者のZoomを使用する技術、インターネットの接続、Zoomを使用して被験者の自然な発話を促す環境など、さまざまな問題・課題があり、国境を越えての研究の難しさを実感している。これは、インターネットを使用し、簡単に世界と繋がれるという利点もあるが、調査としてはそれぞれの被験者の精神的・技術的な問題もあり、大きな課題となっていると考える。 今後は、2006年からの経時的な母親のインタビュー11名、子どもの4名のインタビューを予定している。家族変化・言語選択による家庭内の価値観や子育て(教育)の変化や、政府の支援による社会的変化が日本語の継承、言語継承に与える要因を探るためには、継続して調査していくことが必要である。また、日本人母コミュニティの経時的な調査も引き続き実施し、多文化社会でのコミュニティの重要性、継承語教育の課題なども提示していく所存である。
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今後の研究の推進方策 |
まず、海外渡航制限がある現在の状況から、調査記録などの整理をし、研究発表や研究論文の準備をすすめていく。具体的には日本人母コミュニティについての研究発表および、論文執筆、昨年度までフィールド調査をしていた移住民放送についての論文執筆などを準備していく予定である。 次に、2020年度に予定していた、継時的に調査している在韓日本人母7名とその子どもたちの面接調査を実施する。面接調査では、子どもたちが大学生となり、日本や海外で教育を受けている者などもいるため、在韓日本人母には家庭での言語変遷、国内外での子育て・教育、韓国での生活や政府の支援、日本語の使用、将来の展望など、子どもの成長による言語使用やそれにともなう家族内の価値観の変化などを探る予定である。前回まで、韓国の教育熱が社会問題となり、その熱心さから逃避するために日本語の学習に力を注ぐ者も現れたが、子どもたちが大学生となりどのような価値観や意識の変化が生じているのかも探る。子どもたちへの調査は、現在までの日本語習得・学習に対する思いなど、当事者にとっての「日本語」とは何かを面接調査により探求していく。今年度はオンライン面接調査の可能性も含め、進めていく予定である。 その他に、2010~2011年に調査を開始した日本語を使用していなかった在韓日本人母4名の3回目の面接調査も実施する予定である。2015~2017年の2回目の調査では、すべての家庭で日本語の学習が開始されており、それには日本の親族との紐帯、子どもたちの日本文化への関心の高まり、韓国の教育熱などが関与していた 。引き続き調査することは成長途中から言語継承を始めた子どもたちの重要なデータになり得る。しかし、調査全般に言えることだが、この状況下で被験者の精神的な負担を考え、どれだけ客観的な調査分析ができるかどうかが課題であるが、引き続き調査していく所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度後半(2020年2月以降)からの新型コロナウィルスの影響による緊急事態宣言、海外への渡航自粛のため、韓国での研究調査は不可能となり、旅費として計上していた予算額のほとんどが未使用となった。そのため、面接調査時の報奨謝金、面接後に発生する面接時の録音を文字化するための、文字起こし編集費なども予算分使用できなかった。海外渡航自粛が研究調査に大きく影響を及ぼしたため、支出が減少し、研究費の次年度繰越額が生じた。 今後、渡航制限がいつ解除されるかわからないが、調査が可能な状況となれば、調査のための韓国への渡航費や報償謝金、文字化するための編集費などが発生する予定である。新型コロナウィルスの終息、その後の世界状況などは、現在予想不可能であるが、有効に研究費を使用し、新たな研究成果を発表できるよう、努力する所存である。
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