研究課題/領域番号 |
19K00764
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
寺西 光輝 鹿児島大学, 総合科学域総合教育学系, 講師 (90782467)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | コンピテンシー / 複言語能力 / 行動中心アプローチ / 留学生 / コミュニケーション・ストラテジー |
研究実績の概要 |
令和2年度は、1年目に作成した教材の一部を、実際に授業で応用してその効果を確かめるとともに、1年目に収集したデータを基に、2021年3月に、論文「中国語話者との交流を取り入れた初級中国語教育」を発表した。 本論文では、「複言語能力(plurilingual competence)」の育成を目指した実践を、初修/第二外国語としての中国語教育に取り入れる可能性について論じた。初修外国語として週2回中国語を学ぶ1年前期の学生を対象に実施した、香港および台湾の大学生との交流会について、学生の作成した資料および質問紙調査に基づき分析した。とりわけ交流時に用いたコミュニケーション・ストラテジーに焦点をあてて分析した結果、CEFRの「行動中心アプローチ」に基づき、学習者を「社会的行為者」と見なす場合、入門・初級レベルの学習者にとっては、社会文化的知識とともに、異文化接触場面でいかにして「英語」「やさしい日本語」「身振り」「スマートフォン」「筆談」などの手段を切り替えてコミュニケーションを遂行できるかといった能力が重要であることが明らかになった。本研究から、「コンピテンシー」の育成を見据えた今後の初修外国語としての中国語教育のあり方について、大きな指標を得ることができた。 また、コロナウィルスの影響から、中国語の授業および、授業外学修の場としての「中国語ラウンジ」をオンラインで開催し、オンライン上で留学生と交流するための新たな枠組みの基礎的考察およびデータ収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画通り、1年目に収集したデータを基に、初級レベルの中国語学習者と日本へ短期留学中の中国語話者との交流を通して、「コンピテンシー」を育成するための中国語教育のあり方に関して分析し、論文を一編発表することができた。 一方で、コロナウィルスの流行に伴い、新しい中国人留学生の来日が不可能になり、また学内での対面の交流活動が禁止され、予定していた中国語圏の留学生との交流活動を行うことができなかった。そのため交流タスクにおいて当初予定していたデータ(映像、音声、アンケート等)の収集ができなかった。また学外でも活動への参加や移動が制限されたため、ポートフォリオを通して、中国語学習者を社会文化的実践へと導くという計画も変更を余儀なくされ、予定していた学生の提出物の分析ができなかった。よって、当初計画していた「留学生との交流を前提とした各種タスクおよびパフォーマンス評価の開発」や、それらを「可視化し評価するための指標の開発」という点に関しては、遅れがでている。 ただし、当初の計画を変更し、「中国語ラウンジ」をオンラインで開催するなど、オンラインでの日中間の交流に焦点を当てた実践においては進展があった。また、RAを雇い、学習者を学内の留学生と結びつけたり、社会文化的実践へと導いたりするための中国語の教材開発用の基礎的資料は収集することができた。とりわけ、対面での活動が制限されるなか、オンラインでの交流に関する情報収集を行い、CEFR-CV(2018)で示された、「オンラインでのやりとり」に関する基礎的データの収集においては、予定外の進展があった。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度もコロナウィルスの影響は続くと見られるので、従来予定していたような対面での協働や交流等はせず、オンラインを通して実施できるタスクや教材開発に取り組み、Zoomなどを用いてデータを収集する方法を模索していく。コロナウィルスの流行状況も踏まえつつ、以下の点を実践していく予定である。 (1)初修外国語としての中国語の授業を、「オンライン中国語ラウンジ」と関連付け、発音や会話能力を、オンラインで留学生に確かめてもらったり矯正してもらったりするための体制づくりに取り組み、学生を留学生との交流を前提とした授業外学修へ導くための課題や指標作りを行う。 (2)留学生との会話タスクをオンライン上で実施してデータを取り、初級レベルの学生が用いるコミュニケーション・ストラテジーに焦点を当てた研究を行う。とりわけ従来の中国語教育においてほとんど顧みられることのなかった「複言語能力」の観点からデータ分析を行い、それを教材開発につなげていく。 (3)1年目に作成した「中国語ポートフォリオ」を実質化し、たとえば「異文化体験の記録」について、主にオンラインでの活動に焦点を当てて実施し、データを収集するとともに、それを成績評価に組み込むための指標作りに取り組んでいく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルスの影響により、当初予定していた対面での実験および機材購入、出張等を取りやめ、すべてオンラインでできることに限定したため、物品費および旅費について予定より大幅に使用額が少なかった。 次年度についてもコロナウィルスの影響は続くとみられるため、オンラインで研究・分析をすすめるための機器購入や、人件費に使用する予定である。
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