研究課題/領域番号 |
19K00773
|
研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
鈴木 夏代 立教大学, ランゲージセンター, 教育講師 (50836319)
|
研究分担者 |
原田 哲男 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (60208676)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 英語授業アンケート / タスクの活用調査 / 4技能活用授業の実践報告 / 4技能活用授業と大学入試 / 4技能活用授業と長期ゴール |
研究実績の概要 |
本研究が目的とした1)英語の指導法についての全国の中等教育、高等教育における実態調査、2) 指導法の有効性や効果、課題についての現場目線からの論点整理、3)4技能を網羅するタスクを活用した指導方法を含めた理論研究の応用、のうち1) と2)、さらに3)への示唆を達成することができた。 1)に関しては、まずは英語科と国際科のある全国の高等学校、また英語ディベート活動に実績のある比較的活発に英語教育を実施していると思われる高等学校(176校)にしぼり、郵送によるアンケート調査を8月に行なった。回答を得た結果 (61校)、85.3%の学校で英語を話すタスク活動を取り入れているものの、活動に割く時間は1レッスン中約13分、その形態の多くがペアワークか教員との問答、また具体的な活動は試験対策用の1人スピーキングやエッセイライティング、テキスト表現の定着のための発話活動などがタスク(課題)として認知され、行われていた。ツアーガイドの実践、スカイプ・ディスカッションなど実体験課題もあったが、言語力を認知活動の一環として育くむ21世紀型の協働、アクティブ・ラーニング的なタスクが十分に認知、活用されていないことが伺えた。 2) 「4技能タスクを活用する授業実践フォーラム」を開催したことで、50人ほど教育関係者が集い討論を行ない、議論を深めることができた。高等学校の英語教育が大学入試対策に特化せざるをえないこと、先輩教員の伝統的な教授法に歩調を合わせざるを得ない学校組織のジレンマがあるとの声も挙がった。大学入試という短期ゴールを超えて、言語教育における長期ゴールの中で育てる21世紀型の学習内容や「生きるための学ぶ楽しさ」を構成する4技能タスクを活用する教授法への移行の必要性とジレンマが浮き彫りになった。 3)に関して、授業内の英語と母語使用の効果について研究を行い、その成果を国際学会で発表、討論した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の計画として挙げた全国の国公私立高等学校調査(4900校)において、第1回目は、抽出対象校(まずは、一部英語教育に特色を持つ高等学校)に対象を絞り調査を始めた。大規模な調査ではなかったが、その調査において、授業内のタスク活用、授業組み立て、指導方法、教員自身の意識に関すること等を含め細かに質問項目をA4用紙3ページにわたり設定したにも拘らず、教員から丁寧な回答を得ることができた。さらに必要に応じて出張訪問、観察調査の実施や議論を深めるための情報を得られる学校候補も選定できた。 また、これらの調査と併せて、初年度に予定していた第1回「4技能タスクを活用した授業実践フォーラム」は、当初の予定日が台風上陸と重なったため、日程を調整し直し2020年の1月に開催された。パネリスト(大学教授、都立高等学校英語主任教諭、元私立学校英語教員と研究代表者)と高等学校、大学、出版社の教育関係者など首都圏以外からも参加者が集った。4人のパネリストによる各発表後、発表中に会場に配布しておいた質問・コメント用紙を元に、質疑応答、議論が行われた。参加者からもそれぞれの教育現場における4技能活用の授業実践の試み、また問題点などが挙げられ、全体で意見交換を行うことができた。学習者のレベルや学校に応じた試みは多技多様であり、今後はさらに踏み込んだ実践例の紹介や、論点整理など、次年度に向けての課題が鮮明になった。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の研究実績を踏まえ、次年度に盛り込むべき論点と課題は、 1) 英語力を育てる教育が、認知活動の一環として活用され、21世紀型の協働、アクティブ・ラーニング、CLIL、CBIなどの指導法の核としてタスクが機能することへのさらなる理解の必要性があること。しかし、個々の教員間にそのような意識が共有されていても、学校組織が短期ゴールとして取り組む大学入試対策との間にジレンマが生じている。政府や経済界が掲げる「英語が話せる」英語教育は、現状で多く実施されているテキストの表現を使わせる練習だけではなく、コミュニケーションの役割(情報確認や伝達、社交、行為を促す、態度を表明するなど)に気づかせ、コミュニケーション能力を高めるような教授法の提供が求められる。だからこそ言語授業の中に、ある文脈を設定し大学入試問題であれ、暗記に終始しない学習方法(コミュニケーションを取り入れる)への移行が求められることを周知する。 2) 引き続き、本研究では現況の把握と調査を行う必要がある。当初の予定は調査アンケートに基づき、学校訪問、ミーティング、授業観察、インタビューなどを行うことだったが、今年度は新型コロナウイルスによる緊急事態宣言を受けて、計画どおりの実施ができない。そのため、先に挙げた論点内容とこれまでの調査、実験、効果、議論などを執筆活動によりまとめ、そこから発展的な議論、討論の場をさらに提供する。授業観察等の予定は当面不可能だが、代わりにオンライン・プラットフォームを利用した遠隔ミーティングの開催を計画する。それによって、今年度の研究計画として挙げた、各地の教員とのディスカッション、シンポジウムの開催、それぞれの現場の状況に応じた言語教育の質的向上のために、さらなる論点整理と提言へとつなげてゆく方策である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
主に予定していたアンケート調査費用として初年度に多く計上したが、第1回目だったので、対象校を絞った。今後の調査対象の拡大のために次年度に持ち越すことにした。
|