本研究は、イマージョン教育(カリキュラムの少なくとも半分以上を外国語で、言語以外の教科内容を指導する教育形態)で養成される外国語の「話す」能力を評価した。最終年度は、Two-way immersion (TWI:多数派言語話者と少数派言語話者をそれぞれ約半分ずつでクラスを構成し、お互いの言語で教科学習を行うバイリンガルプログラム)、ここでは日本語と英語で教科学習を行う米国の公立小学校のTWI(日英双方向イマージョン・プログラム)に在籍している小学校の「日本語継承言語話者」と「英語を母語とする日本語学習者」の発音能力を、One-way immersion(OWI: 多数派言語話者のみを対象としたバイリンガルプログラム) の児童と比較した。 OWIは1、2年生の時にカリキュラム全体の90%程度を日本語で行うプログラムであるが、TWIは1年次からカリキュラムの50%を日本語で実施している。前述のように、TWIでは50/50モデルでも、継承言語話者からのインプットがあり、学習言語での交流が盛んになると予想でき、どちらのプログラムのほうが発音習得により効果があるかは検証に値する。促音と短音の閉鎖持続時間の割合(closure duration ratio)は、子音の調音点の位置に関係なく、OWIとTWIの児童に有意差は観察されなかった。しかし、OWIの児童は学年間で進歩が見られなかったが、TWIの児童は上級学年に進むにつれて、両唇音である[pp/p]に僅かな進歩が見られた。同様に、OWIとTWIの児童のvoice onset timeの習得も似たような結果が得られた。 最後に米国の日本語イマージョン教育に在籍する児童の話す力と発音能力に関しての研究は他になく、またOWIとTWIの発音習得の比較は皆無であることを考えると、本研究には大きな意義がある。
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