研究課題/領域番号 |
19K00796
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研究機関 | 文教大学 |
研究代表者 |
山川 智子 文教大学, 文学部, 教授 (80712174)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 複言語・複文化主義 / 欧州評議会 / CEFR / ポートフォリオ / ヨーロッパ学校 / 国際文化交流 / 市民性教育 / ランデスクンデ |
研究実績の概要 |
ヨーロッパ統合において言語教育政策が果たした役割を、欧州評議会の提唱する「複言語・複文化主義」に焦点をあて検討し、日本への応用可能性を検討するのが本研究の目的である。理念を具現化する「ポートフォリオ」の活用実態も調査する。コロナ禍で次年度に延期したヨーロッパ学校での現地調査の実施にむけ、2019年度から収集した資料を整理し、本研究を体系化した。「複言語・複文化主義」がドイツの教育にどのように反映されているかを資料から読み取り、国際理解教育との関連を探った。 具体的には次のことを行った。①多文化共生社会での「複言語・複文化」教育の役割に関する考察②ヨーロッパ統合における言語文化教育の史的検証③日本への適用可能性の検証。 ①に関しては、ドイツの教科書を検証した。ドイツ語で書かれた歴史教科書の他、英語で書かれた歴史教科書も検証した。言語教育における「ランデスクンデ」の扱い方、および市民性教育との関連性を示し、「複言語・複文化主義」の解釈を深化させた。 ②に関しては、欧州評議会の役割やEUとの関連性、市民性教育に関して資料を渉猟することで、ヨーロッパ統合における言語文化教育の歴史にイギリスのEU離脱をどう位置づけられるかを考察した。「複言語・複文化主義」は、社会科学系の領域でも十分に活用できる考え方であると理解した。 ③に関しては、研究者とのネットワークを広げ、問題意識を深めてきた。研究代表者の勤務校に所蔵されている世界各地の教科書について、その収集経緯・目的に関して発表を行い、教科書研究の意義と可能性を考えた。さらに、対外文化政策において、現地の人々と「複言語・複文化」的交流を重ねながら活動するドイツの言語文化普及機関(ゲーテ・インスティトゥート)に関する発表を行った。2020年度の研究成果は口頭発表2件で公表し、また国際シンポジウムのワークショップでも関係者と情報共有した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍で、2020年度末(2021年3月)に実施予定の現地調査を延期した。そのため、現地調査で得られるはずだった情報の分析や検証作業に進むことができなかったのが遅れが生じた大きな要因である。その一方で、資料を幅広く収集し、分類・整理を続けたことで研究の幅が広がり、本研究をより俯瞰的にとらえることが可能となった。そのことにより新たな課題も浮上し、次年度の研究につなげる道筋をつけることができた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き資料の収集と整理、情報の体系化に努め、以下のような作業に注力し、研究成果を公表していく。現地調査は、ワクチン接種の状況や渡航先の情勢を見極め、実施を検討する。 ①民主主義の理解を深めるための「複言語・複文化」教育の意義を明示する。欧州評議会とEUという二つの異なる国際機関が、言語教育政策において緩やかに影響を及ぼし合っていることを明示していく。さらに、個々の現場で理念と現場実践との間をつなぐ「ポートフォリオ」がどのように活用されているか引き続き検討する。 ②「複言語・複文化主義」および「ポートフォリオ」の日本への適応可能性を探る。「複言語・複文化主義」は自分の関わる言語と文化を社会的文脈におき、様々な「つながり」を自覚させる概念である。CEFRの「複言語・複文化主義」という理念が見落とされやすく、CEFRが評価の枠組みとして認識されている点を今後も指摘し続ける。さらに「共通参照枠」に記載された「能力記述文」を、「複言語・複文化」の発想で読み込む。学習者が主体的に日常生活を送るための道標の一つが「肯定的評価」であることを示す。 ③現地調査にむけた体制を整える。本研究で扱う「ヨーロッパ学校」は、EU諸機関の職員の子弟が主として学ぶ学校である。ヨーロッパ各地に設置されており、本研究ではそのうちドイツに設置された学校を対象とする。母語での教育が原則とされているなかで、社会科系科目は異言語で学ぶことが推奨されているが、この取り組みを「複言語・複文化主義」の視点から検証し、市民性教育の可能性を開くものとして位置づける。対話による状況把握や仲介する能力を育む授業(「ヨーロッパの時間」)で共感力を育み、本質観取を重ねることで互いが納得できる状況づくりを目指す姿勢が「複言語・複文化主義」であることを示す。欧州評議会の理念を各領域の研究で共有し、ヨーロッパ研究への新しい視点の獲得を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、本研究テーマに関する資料収集と整理に注力した。コロナ禍で現地調査を延期したので渡航費や宿泊費等の支出はなく、次年度使用額が生じた。これらは次年度の現地調査のための費用、および新たに浮上した課題のための資料収集の費用にあてる。ワクチン接種や渡航先の情勢を見極め、確実な研究成果を得るため細心の注意を払い、体制を整える。これまで築いてきた研究上のネットワークを活用し、本研究に関する資料を幅広く収集・体系化し、研究を遂行する。
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