本年度は大きく分けて (1) 逸脱語と文脈の適合度を評価する予備調査,(2) 定型表現を用いた実験文の作成,(3) (2) を意味的逸脱課題として使用する場合に適したテスト形式を調べるための予備調査,(4) 日本人大学生および大学院生を対象に,冊子形式での意味的逸脱検出課題を行った。 (1) に関しては,逸脱語と調査の文章で使う文脈を日本語のペアで組み合わせ,日本人母語話者に適合度を7段階で評定してもらった。その結果,文脈とよく合致する条件 (good fit to the context) で使うことを前提とする逸脱語は,文脈の適合度がよくない (poor fit to the context) ことを前提に使用する逸脱語よりも,適合度判定が有意に高いことが確認できた。次に (2) 定型表現を意味的逸脱課題に組み込むために実験文の作成を行った。具体的には,一つのイディオムに対して「慣用的な意味」で用いる場合と「文字通りの意味」で使用する場合のそれぞれで実験文を作成した。それらが自然な読みで使われるよう,第一文では文脈を設定するようにし,第二文目でイディオムを含む文が出てくるように実験文セットを調整した。また,イディオムの意味を日本人英語学習者は知らないことから,イディオムを学習するセッションでは例文やイメージ画像を合わせるようにした。(3) の実験手法に関しては,一つの例文に対して (a) 冊子形式,(b) 変化検出課題,(c) 処理時間測定という3種類を試した。予備調査の参加者たちは,(a) の形式で読むことが読解そのものに集中せざるを得ないため,意味的逸脱の検出が難しいとのことだった。(4) 日本人大学生および大学院生を対象にした意味的逸脱課題を冊子形式で行ったところ,文脈の影響が逸脱語の検出率に影響を及ぼしており,過去の類似した研究を改めて支持する結果となった。
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