本研究は日本人英語学習者の読解における意味処理の深さを検証したものである。2021年度は主に、(1) 文脈と逸脱語の合致を確認するための予備調査(英語母語話者が判定した英語の文章、日本語母語話者が判定した日本語の文)、(2) 日本人英語学習者による処理時間実験(文脈と逸脱語の合致度を操作したもの、およびイディオムを含む意味的逸脱文)、(3) 英語と日本語の尺度含意に着目した判定課題を行った。まず、英語母語話者を対象に海外のクラウドソーシングサービスで協力者60名を募り、意味的逸脱語と文脈の合致度を7段階の尺度で「とても良く合致している」から「全く合致していない」まで判定してもらった。同様のタスクを、日本のクラウドソーシングサービスを介して日本語母語話者に対しても実施し、英語でも日本語でもマテリアルが機能することを確認した。その上で、日本人大学生に個別調査形式で処理時間測定課題を実施した。読み手は二文からなる日本語と英語の短い文を自分のペースで読み、意味的に正しいか否かを判定し、その自分の判定に対してどれくらい自信があるかを6段階で評定した。意味的逸脱の検出率から読解中の意味処理が文脈との合致度に影響されることが示されたが、この効果をさらにマテリアルの特性から精査するため、英語のイディオムの一部が意味的逸脱になるようなマテリアルを作成し、同様の調査を行った。協力者には処理時間測定テストの前に指定のイディオムをイメージや由来とともに覚えてもらい、その上で同様の意味的逸脱課題を実施した。また意味的逸脱の判断に影響する要因として尺度含意 (some/all) にも着目し、文の容認性判断課題も実施した。 一連の研究から、日本人英語学習者の読解中の意味処理の深さは文脈から影響を受けることや、研究手法によって逸脱の検出率が異なることが示された。
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