研究課題/領域番号 |
19K00807
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研究機関 | 神田外語大学 |
研究代表者 |
拝野 寿美子 神田外語大学, 外国語学部, 准教授 (30747001)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 継承ポルトガル語教育 / 在日ブラジル人女性 / 在外ブラジル人 / 継承語の資産性 |
研究実績の概要 |
2020年度はコロナ感染により海外渡航が不可能であったため、海外の学会での発表や海外調査はできなかった。しかしながら、当初予定していなかった、国内の継承ポルトガル語教師養成コースの参与観察が可能となり、本研究の目標である、継承語教育における異文化間能力形成のメカニズムの考察については一定の進展があった。この調査結果については、2021年6月の異文化間教育学会研究大会で個人発表を行う予定である。 また、2020年度は2019年度以前の調査結果をまとめ、6月に実施された日本移民学会で個人発表をするとともに、上智大学イベロアメリカ研究所の査読付き紀要であるEncontros Lusofonosに論文として掲載することができた。さらに、国立国語研究所の福永由佳氏の編集による書籍『顕在化する多言語社会日本』(三元社)の分担執筆ではブラジル人集住地である群馬県大泉町の多言語化を概観しつつ継承ポルトガル語話者の存在が日本社会に与える影響についても言及し、在英ブラジル人研究者Ana Souza氏編集の"Portugues como Lingua de Heranca; uma disciplina que se estabelece"(Pontes Editores) にも、日本の継承ポルトガル語教育に関する論考をポルトガル語で掲載した。2021年3月には継承ポルトガル語教師に関する英語の論文を米国大学の関係誌に投稿中である。 9月に実施された在日ブラジル人向けの継承語教育に関するシンポジウムに招待パネリストとして参加した際は、継承ポルトガル語話者が日本社会の多言語化を促進しておりポジティブな影響を及ぼしていることをデータを示しながら発表し、参加者であるブラジル人保護者に対して、日本において母語による子育てが推奨されつつあることを紹介し研究成果の社会的な還元を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一に、「研究実績の概要」でも述べた通り、国内の継承ポルトガル語教師養成コースへの参加がかなったことで、国内の継承ポルトガル語教師とのネットワークが作れた点や、研究の目的である異文化間能力の形成に関する考察が進んだことによる。第二に、マジョリティとマイノリティでは開発されるべき異文化間能力は異なる、との先行研究による前提に立ったときに、このコースで重視されている社会情緒的能力がマイノリティにとっての異文化間能力の土台になるのではないか、という仮説を立てるに至ったからである。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」で言及した、継承語教育における社会情緒的能力と異文化間能力との関係性について考察を深めていく。その際、継承ポルトガル語だけでなく、日本で多く蓄積されている継承日本語教育研究や、欧米における継承語教育に関する先行研究も視野に入れる。この点については、特に2021年6月に行う異文化間教育学会研究大会での個人発表を、広く意見交換を行うための契機としたい。その後、先行研究およびオンラインで収集が可能な国内外の継承ポルトガル語教材や情報の分析も進めて、論文としてまとめる。 海外渡航が可能となった時点で、欧州の継承ポルトガル語教室の視察や関連学会での研究成果の発表を行いたい。 さらに、「継承語教育は誰のためのものか」という問いを立て、その利益享受者は誰なのかを研究成果をもとに明らかにしながら、ホスト社会における移民の継承語教育への更なる関心を呼び起こすための書籍化の準備を始める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外調査のための旅費を使用しなかったため。
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