複言語・複文化環境で育つ子どもは「グローバル人材」となり得る。その力を発揮させるには、継承語の維持が重要と考えられる。とはいえ、日本の学校では、そのような状況で育つ「外国につながる子ども」は、「日本語指導が必要な児童生徒」と位置付けられ、日本語力のみに注目されることが多い。彼らの複言語複文化リソースである継承語力や継承語教育については、十分に研究されていない。本研究では、ブラジルにつながる子どもたちの継承語教育が社会でどのように位置づけられ、また継承語教育現場では複言語・複文化環境やマイノリティ性をどのように子どもたちの「生きる力」(異文化間能力と定義)にしようとしているのかを、欧米と比較した。 欧米では、社会が複言語主義を採っていることで、言語レパートリーの一つとして継承語の維持が推奨されていた。一方、日本では彼らの継承言語文化は価値づけられず、子どもたちは日本人と自分たちを比較し自らのルーツを肯定的に捉えられず、日本にもブラジル人コミュニティにも帰属感を持てない。日本で継承ポルトガル語教育を実践している教師(多くがブラジル人女性移民)は、継承語教育を通して、子どもたちをブラジル人コミュニティだけでなく、日本の学校や日本社会にもつなげる努力をしていた。継承語教育が「親子をつなぐ」だけでなく、「地域とつながる」ツールにもなり得ていた。教師たちは、子どもたちに最も重要なのは自尊心であると考えており、マイノリティの異文化間能力モデルを考える上で、大きな示唆を得た。 さらに、継承語教室にボランティアとして携わる地域社会の日本人住民が、この教育を通して地域の外国籍住民の現状を知ったりブラジルやポルトガル語の知識を持つことで「ブラジル人コミュニティにつながる」ことができ、彼らの異文化間能力形成にも寄与するなど、継承語教育が外国人住民と地域住民両者の社会的資産であることが明らかとなった。
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